第4波のまっただ中に「Go To トラベル」再開は正常な判断? 自民・二階氏は強い意欲を示すけど

2021年4月8日 11時30分
 自民党の二階俊博幹事長が「Go To トラベル」について「恐れていては何もできない」と、再開に強い意欲を示した。いやいや、ちょっと待ってほしい。そもそも今なぜGoToをストップしているかと言えば、新型コロナウイルス感染拡大防止のため。現在、第4波のまっただ中で、感染力が強いとされる変異株の拡大も不気味なのに、GoTo再開は正常な判断と言えるのだろうか。 (木原育子、中山岳)

◆番組司会者が固まるも、構わずまくしたてる二階氏

衆院本会議に臨むあごマスク姿の二階俊博自民党幹事長=6日午後、国会で

 「恐れとったら何もできないですよ。みんな全員家に引きこもって、表(の扉)を閉めときなさいって、これじゃあ、日本経済止まっちまいますよ」「それぞれの地域、市町村、過疎、過密、あらゆる都市にも、くまなく努力しただけの恩典があるんですよ。経済効果があるんですよ」
 自民党の二階俊博幹事長は4日のBSテレ東の番組で、停止中の観光支援事業「Go Toトラベル」の再開に強い意欲を示した。2人の司会者が一瞬、固まってしまったが、二階氏は構わずまくし立てた。

◆観光業界も冷ややかな反応

 観光業界はこの発言を、どう見たのか。1985年創業の箱根湯本温泉「かっぱ天国」の村上東司社長(69)は「瞬間的にお客さんは増えてうれしい」とするが、あきらめモードでもある。「GoToって言っても、その日を食いつないでいるだけ。夢なんて何もない。政治家が給与返上で、命がけで働いてくれるわけでもない。感染者数も止められず経済もじり貧だ」
 箱根町観光協会の佐藤守専務理事も「GoToなど支援事業があっても、判断は国や知事がすること。この感染状況では、必要以上に『来てください』とは呼べない」
 旅行会社「Aトラベル」(東京)の沼田和幸社長(55)の表情も険しい。「旅行業界は、団体旅行が企画できたり個人旅行のみだったり、旅行業種によって仕事内容が全く違う。GoToという催眠術にかかって世の中が動けば恩恵がある会社もあるだろうが、ない会社も出る。大手を救うだけ。税金を使って不公平感を生んでいるだけだ」

◆帝国データバンクは「もう業界の限界は近い」

 観光業界は苦しい状況が続く。帝国データバンクによると、7日までにコロナ禍の影響で倒産したのは1272件。業種別では「飲食店」は212件だが、「ホテル・旅館」の87件、「旅行業」の18件と続く。東京支社情報編集課の阿部成伸課長は「飲食店は母数も多いが、ホテルや旅館は老舗も多く、飲食店よりある種打撃を受けている」と指摘する。
 昨年12月に初めて倒産件数が120件を突破して以降、過去最多を更新し続ける。
 阿部課長は「政府の過去にない支援策で、倒産を何とか抑制してきたが、もう限界は近い。持ちこたえられない企業が増え、昨年末から『倒産一波』がきている」とみる。

◆GoToに執着する二階氏は思考停止状態?

 政府は苦肉の策として、感染状況がステージ2相当以下の地域に都道府県内の旅行に限り、宿泊割引を1人1日5000円を上限に補助する「県内Go To」の支援策を立ち上げた。期間は4~5月で、6月から全国規模で再開するまでの「つなぎ」の位置付けだ。
 それにしても、二階氏はなぜ、GoToにこれほど執着するのか。
 政治ジャーナリストの藤本順一さんは「状況の変化を認めたくないという、思考停止状態ではないか。健全な政治家としての判断能力を失っている」とばっさり。来る衆院選での地方票狙いとも取れるが、藤本さんは言う。「利益誘導型の政治手法は、選挙で有利に働くとは限らない。票になるかは分からないですよ」

◆政府は「GoToと感染拡大の因果関係なし」の見解変えず

昨年12月、東京・浅草の仲見世通りに掲示された「Go To トラベル」のポスター。同月末にGoToは停止された=東京都台東区で

 人の往来を減らすのは感染症対策の基本だ。新型コロナ禍の1年余、各地で不要不急の外出自粛が促され、昨春や今年1月に出た緊急事態宣言でも繰り返し要請された。そうした移動制限と真逆のGoToトラベルやGoToイートが感染拡大につながる懸念は、開始当初から医療関係者や専門家の間で強かった。
 だが、政府はこれまでGoTo事業と感染拡大との因果関係を正面から認めていない。昨年11月に感染者が増えた時期には、医師らから「トラベル」の一時停止を求める声があったにもかかわらず政府は継続に固執。全国一斉停止は12月28日まで遅れた。その当時も、加藤勝信官房長官は記者会見で「感染拡大の主要な要因だとのエビデンス(証拠)は現在のところ存在しないとされ、この認識が変更されたものではない」と強調した。
 「因果関係なし」との見解は今も変わらないのか。内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室に尋ねると「特に変更はない。分科会の専門家からも新たな提言はいただいていない」とコメントした。

◆専門家からは「因果関係が無い証拠はない」

 これに対し「GoToで感染者が増えたことは否定できない」と異を唱えるのは、国際医療福祉大の高橋和郎教授(感染症学)。「昨年は第3波のさなかでも『トラベル』の一斉停止が遅れて感染が拡大した。停止後も年末年始に人の動きが抑えきれなくなり、感染者が増え続けた」とみる。
 高橋氏は、「トラベル」が感染拡大にどう影響したかは利用者のうち感染者が何人出たかを調べるだけでなく、利用者が旅行先で接触した人や接触者の家族らなど広範囲の調査が必要という。「第3波では各地で保健所が感染経路を追い切れていないケースも多い。政府は細かい調査をしないまま『因果関係を示す証拠はない』と強弁するが、裏を返せば因果関係が無いという証拠もない」と説く。
 東京大の大沢幸生教授(知能情報学)も「因果関係はあるだろう」。人と人との接触で感染がどう拡大するかシミュレーションした結果、「知らない誰かと接触する機会が増えると、感染が爆発的に増える可能性が高まる」と指摘。「トラベル」のような都道府県をまたぐ遠距離移動は感染拡大に影響するとし「防ぐには身近な生活圏(コミュニティー)にとどまることが重要だ。今は変異株の感染リスクがどの程度かまだわからず、(トラベルの)再開は慎重になるべきではないか」と警鐘を鳴らす。

◆政治家がコロナ慣れしていては…

 政府が因果関係を認めるかどうかにかかわらず、感染状況は深刻さを増している。大阪府では7日の感染者数が過去最多の878人に上った。東京都は同日に555人の感染を確認し、全国ではあわせて3000人を超えた。
 長崎大感染症共同研究拠点の安田二朗教授(ウイルス学)は「第4波に入ったといえ、地方でも感染者が増えている。GoTo事業の再開はありえない」と強調。「観光業界や飲食業界への支援では、全国一律に人の移動を奨励して補助金を出すより、限られた地域ごとに状況に合わせたきめ細かい対策が求められるのではないか」と話す。
 元財務官僚で明治大の田中秀明教授(財政学)は「GoTo事業にこだわらず、雇用調整助成金など他の支援策を充実させればいい。だが二階氏の発言や政府の対応からは、経済を回すためならある程度の感染拡大は仕方ないとたかをくくっているのではないかとすら思える」とし、こう続けた。「政治家が『コロナ慣れ』してしまえば、感染拡大を抑えられない。政府は今こそ感染者を本気で減らすためのメッセージと政策を出してほしい」

 デスクメモ 感染拡大との因果関係は認めないが、政府は現在GoToを停止中。これは一体何なのか。経済を回せとGoToを強行したら、やはり第3波を招いたのでやむを得ず停止したが、批判されたくないから関係はないと言い張っているわけだ。さらにこの上、再開とは。恐るべき無責任。 (歩)

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