<中村雅之 和菓子の芸心>「タヌキの人形焼」(東京都墨田区・山田家本店) 名人も語る七不思議

2021年4月9日 07時16分

イラスト・中村鎭

 テレビなどで「都市伝説」という言葉をよく聞く。言葉としては、いかにも現代的だが、この手の話は、江戸時代に既にあった。一定の場所や地域にまつわる不思議な話を七つひとまとめにした「七不思議」だ。
 江戸で最も知られていたのは、「置いてけ堀」「ばかばやし」「送りちょうちん」「落葉なき椎(しい)」「津軽の太鼓」「片葉のあし」「消えずのあんどん」の「本所七不思議」だ。
 七つの中で最も知られているのが「置いてけ堀」。薄暗くなってきた夕方、錦糸町辺りの堀で釣りをしていると、どこからともなく、「置いてけ 置いてけ」という不気味な声がした。慌てて逃げた後、フッと気が付くと、いっぱいだったはずの魚籠(びく)の中の魚が、すっかりなくなってしまっていたというのだ。
 かつて、戦後を代表する伝説の名人・五代目古今亭志ん生(1890〜1973年)は、その話を本題に入る前の「マクラ」に使い、「おいてけ堀」や「本所七不思議」の題で落語を語っている。タヌキは、河童(かっぱ)と並び、「置いてけ堀」の声の主の正体だという説がある。志ん生の落語も「タヌキ説」を採っている。
 この「おいてけ堀」にちなんだのが、JR錦糸町駅前にある山田家のタヌキの人形焼。卵問屋から始まった、この店ならではの最高級の卵を使った薄手の生地の中に、甘さを抑えた漉(こ)し餡(あん)がたっぷり入る。ずしりと重い。
 人形焼の形は、店によっていろいろあるが、タヌキは珍しい。山田家では、モミジや太鼓を押しのけ一番人気。タヌキばかりを並べて箱詰めにすると実にかわいい。贈り物に最適だ。 (横浜能楽堂芸術監督)
<山田家本店> 東京都墨田区江東橋3の8の11。(電)03・3634・5599。12個入り1742円。(箱代含む)

五代目古今亭志ん生


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