少しでいい、背中を押して コロナで苦境の伊豆長岡芸者 「芸を守るため補助があれば」

2021年4月9日 07時20分

コロナ禍でも芸を磨くため、若手に交じり稽古をする石井務津子さん(手前(左))と九美さん(同(右))=伊豆の国市で

 新型コロナウイルスの影響で、伊豆の国市の観光・飲食業も大打撃だ。約100年の伝統を誇る伊豆長岡温泉の芸者は、お座敷がほぼゼロとなり収入が激減。存続の危機に陥った。 (渡辺陽太郎)
 「違う。できてない」。一日、伊豆長岡見番(伊豆長岡芸能事業協同組合)で稽古する四人の芸者に踊りの師匠の厳しい声が飛んだ。見番代表理事の石井務津子(むつこ)さん(75)や九美(くみ)さんらベテラン芸者が、若手に負けない動きを見せる。石井さんは膝を痛め正座ができないが、「お座敷がなくても、芸の質を落としてはいけない」と妥協はない。
 一九六〇年代、伊豆長岡温泉には約四百人の芸者がいた。観光客がお座敷を楽しみ、企業も接待で頻繁に利用した。バブル崩壊後、芸者は減り現在は十人だが、忘年会シーズンは、休みがないほどお座敷に呼ばれていた。しかし新型コロナが拡大した昨年三月以降、お座敷がなくなった。
 十人は個人事業主で稽古代や衣装代は自腹。石井さんや九美さんは、飲食店を経営しながら芸者を続けるが、稽古で支出は増える。市は国の持続化給付金の給付決定を受けた人で、売り上げが前年同月比70%以上減った個人事業主に最大四十万円を給付。九美さんは「ありがたかったが、十分ではない」。複数のアルバイトを掛け持ちして生活する芸者もいる。
 石井さんらは生活維持のため、独自のイベントで芸を披露。今年一月から、三密を避けて楽しめる「オンラインお座敷」も始めた。
 市内の宿泊者は二〇一九年度が約六十六万二千人。伊豆長岡温泉旅館協同組合は昨年度はさらに40%ほど減ったとみる。回復は見通せず、今夏の東京五輪・パラリンピックでは海外客が来ないことが決まり、期待したPRの場も消えた。
 見番は独立独歩で芸を磨くため、行政の補助を受けてこなかった。石井さんは「昔は先輩方から『芸のことだけ考えろ』など言われたが、そんな時代ではない。稽古代や芸を披露する会場の代金の一部でも補助があれば」と話す。九美さんは「コロナ禍でできることはすべてやった。芸の質も落としていない。芸者のいる貴重な温泉街を守るため、ほんの少しでいい。背中を押してほしい」と訴える。
 政治行政は地域経済と伝統文化を守れるのか。伊豆の国市長選(十一日告示、十八日投開票)は、三選を目指す現職の小野登志子さん(76)と新人の元農林水産省局長山下正行さん(65)が立候補予定だ。

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