激震 西村健著

2021年4月11日 07時00分

◆雑誌記者が見た1995年
[評]青木千恵(書評家)

 平和な日常が一変し、世の中が揺さぶられた。一月に阪神・淡路大震災、三月に地下鉄サリン事件が発生した一九九五年に焦点を当て、描かれた長編小説である。
 九五年一月、月刊ビジュアル情報誌『Sight』の記者・古毛冴樹(こもさえき)は、震災の取材で神戸に向かう。被災地の惨状に呆然(ぼうぜん)とする中、焼け跡に佇(たたず)む若い女性を見かけ、強い光を帯びた「眼」に引き込まれる。女性は余寿々絵(あまりすずえ)といい、遺体で見つかった寿々絵の父親の死因は震災死ではなく、殺人だった。眼に惹(ひ)かれた古毛は、震災の取材と共に殺人事件についても調べ始める。帰京するとほどなく、地下鉄サリン事件が発生する――。
 <目の前のことに振り回されてるだけ。後にゃあ何にも残っちゃいねぇ。世間、てぇお釈迦(しゃか)様の掌(てのひら)で踊らされてる、孫悟空かよ>。九四年年末から九五年年始にかけて「埼玉愛犬家殺人事件」でもちきりだった報道は、「震災とオウム」一色となる。警察庁長官狙撃事件、八王子スーパー強盗殺人事件など恐ろしい事件が相次ぎ、古毛らは取材に駆け回る。官僚の過剰接待事件を追う記者もいる。当時フリーの雑誌記者だった著者が、時代状況と編集現場をつぶさに描き、臨場感がある。
 月刊誌はテレビや新聞、週刊誌に比べ速報が難しいため、古毛は事件の掘り下げに注力する。高学歴で、エリートと言われる若者がなぜ、続々と新興宗教に引き寄せられたのか。九五年は戦後五十年の節目にあたり、雑誌が販売を伸ばした年でもあった。著者は、長期戦を得意とする記者を主人公にして戦後社会の軋(きし)みを捉え、さらに今に至るまでの「変わるもの、変わらないもの」に着目する。殺人事件の謎が解かれる、ミステリー要素も絡めている。
 九五年以降、インターネットが普及して速報性は高まり情報量は増し、世の中は大きく変わった。だが、変わらないものもある。また、未(いま)だ答えが見つからない問いが多々あるのではないか。激震から二十六年、時代はどう流れてきたか。九五年を掘り起こし、今を問う小説でもある。
(講談社・2090円)
1965年生まれ。作家。96年、『ビンゴ』でデビュー。著書『ヤマの疾風(かぜ)』など。

◆もう1冊

西村健著『バスを待つ男』(実業之日本社文庫)

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