老い、恋…自らを正直に 『池田理代子第一歌集 寂しき骨』 漫画家、声楽家・池田理代子さん(73) 

2021年4月11日 07時01分
 『ベルサイユのばら』や『オルフェウスの窓』で知られる少女漫画の巨匠が、その人生を三十一文字(みそひともじ)で振り返っていくような歌集だ。十代の頃からしたためてきた中から厳選した百六十七首は、自らをどこまでも正直に描き出している。
 短歌を詠み始めたのは、中学時代。漫画を描くよりも先だった。授業で出合い、その後もさまざまな表現手法に取り組んだ中で「一番、自分のリズム感にしっくりきた」という。
 「これを出さねば死ぬに死ねない」ほどの切羽詰まった気持ちでこぎ着けた今回の出版。年を重ねるごとに、二十代で戦争を体験した父のことを発表したいとの気持ちが高まってきた。その思いは冒頭の一首からあふれている。
 <南方の戦(いくさ)を生きて父は還(かえ)る 命を我(われ)につながんがため>
 日本軍兵士が全滅に近い戦いを強いられた南方の島で捕虜となりながらも生き抜き、自分を世に生み出してくれた父。負傷し、マラリアにかかり、麻酔なしで手術も受けた。「悲惨な戦争があったことを多くの人に知ってほしい」
 「父と戦争」に始まり、「母」「老いと向き合って」「最後の恋」など十一のテーマで編まれ、間の書き下ろしエッセーでは初恋の悲話なども明かした。
 老いた飼い猫を詠んだ一首から取ったタイトルは、父や戦争で亡くなった兵士の遺骨なども連想させずにおかない。他の歌からも「骨にこだわっている」ことが随所で伝わってくる。
 女性としての悩みや苦しみが表れた歌も。
 <作品は男ものこす 我はただ 女に生まれた理由(わけ)を知りたし>
 母から「男に頼らず、手に職をつけろ」と言い聞かされて育った。女性の労働環境が今以上に厳しい時代、喫茶店の店員となって自活を始めたのは十八歳だ。
 <セクハラと何を今頃騒ぐのか 生きている限り口にはできぬ>
 「女性が生きていくのは本当に大変な社会。コロナ禍を機に、立ち止まって見直してほしい」と訴える。
 二十五歳下の男性との「最後の恋」は、猜疑心(さいぎしん)にさいなまれた日々の末、成就。最後の一首が胸を打つ。
 <この人を忘れてしまう日が来るのか いつか私でなくなる時が>
 「漫画はある程度体力がないと描けない。今後の表現ツールとしてはやはり、短歌」。第二歌集も期待したい。集英社・一八七〇円。 (清水祐樹)

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