古書と、本郷と、歩んだ90年に幕 大学堂書店 今月末で閉店

2021年4月14日 07時14分

店主の横川泰一さん(右)と妻の光枝さん

 文京区本郷で戦前から営業し、近隣の東京大学の学生や研究者らに愛されてきた古書店「大学堂書店」が四月末で閉店する。創業から九十年目の節目、コロナ禍で客足が減ったことで、高齢になった店主が店じまいすることを決断した。惜しむ声が上がる。 (長竹祐子)
 「本郷の銀杏(いちょう)とともに九十年」。店内の張り紙が、東大とともに歩んできた長い歴史を伝える。閉店セール中の店には、卒業生らが「学生時代にお世話になりました」と遠方から次々と訪れている。
 店主の横川泰一(たいいち)さん(84)の父、精一さんが一九三二(昭和七)年に東大正門の近く、本郷通り沿いで創業した。和歌山に住む博物学者、南方熊楠(みなかたくまぐす)(一八六七〜一九四一年)のために、本を集めたこともある。
 跡継ぎの泰一さんが八六年、本郷三丁目交差点に面した「かねやすビル」隣の雑居ビル一階に分店をオープンした。その後、本店はマンション建設に伴い立ち退きを求められたため、一店のみの営業となった。これが現在の店だ。

夏目漱石が描かれた看板

 東大かいわいは専門書の古書店が多いが、文学、歴史、芸術、料理本など幅広いジャンルの一般書を扱った。文豪・夏目漱石の顔を描いた店内の看板がシンボル。地下鉄の本郷三丁目駅に近く、気軽に立ち寄れる。客の一人には、社会学者で評論家の小室直樹さん(一九三二〜二〇一〇年)もいた。
 泰一さんは、本郷の町を見続けてきた。戦争中の東京大空襲では近くまで火の手が迫る中、東大沿いに掘られた防空壕(ごう)に逃げた。店を守るため、父の精一さんが屋根に上ってバケツで水をまいていたのを覚えている。
 妻の光枝さん(78)と結婚後は、仕入れは泰一さん、店番は光枝さんと夫婦二人で役割分担して、切り盛りしてきた。店が奥まった場所にあるため、ビルの入り口でのワゴンセールを考案したのは光枝さんだ。

店内に飾られた大学堂書店の看板

 昭和の時代、百貨店に古書店が集まる催事が人気だった。泰一さんは、古書展に古書を詰めた木箱をいくつも運び込んだのが思い出深い。「大変だったけど、お客さんが、われ先に階段を駆け上って好きな本を買い求めてね」。売れ筋をつかみ、仕入れの参考にする機会でもあった。
 コロナ禍で客足が減った。閉店は「創業九十年と八十五歳を迎えるのを機に」と昨年末に決めた。「本音では元気だから続けたい。でも、年齢的に迷惑をかけるといけない」。感謝の思いを込め、最後の日まで笑顔で店に立つつもりだ。日曜定休。営業時間は午前十時〜午後七時(土・祝日は同六時)。

大学堂書店の店内=いずれも文京区本郷で


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