処理汚染水 海洋放出 茨城県の漁業関係者、憤りとあきらめ「東電の説明一度もない」

2021年4月14日 07時22分

揚がったシラスは、漁協内の市場で競りにかけられた=北茨城市で

 政府が十三日の関係閣僚会議で、東京電力福島第一原発に大量保管されている処理済み汚染水の海洋放出を正式決定し、福島県に隣接する茨城県北茨城市の大津漁協の漁業関係者からは「一度も説明がない」と東電や国の対応に憤りが広がる一方、「仕方がない」とあきらめムードも漂った。魚が売れなくなれば市内経済に打撃となるだけに、加工業者からも不安の声が漏れた。(保坂千裕)
 この日午前十時、福島第一原発から約七十キロ南にある大津漁協内の市場では、水揚げされたシラスの競りがあった。競りの開始前に海洋放出の決定が速報されたものの、話題にする人はいなかった。
 競りに訪れた五十代の仲買人は「いつまでも処理水をためておくことはできず、仕方ない」と淡々と話した。だが、今後について「原発事故直後、飲食店の客から、ここの魚は危ないのではと問う声があった。海洋放出となれば、何も言わずに買ってもらえなくなるのでは」と危機感も示す。
 漁師たちの間では、東電の説明不足を疑問視する声も相次いだ。
 五十代の漁師は「東電からは一度も説明がない。漁をするのは末端のわれわれだが、海洋放出の決定も報道を見て知った。思いを伝える場が自分たちにはない」と語気を強めた。
 この漁師は、原発事故前から福島県沖でもコウナゴ漁をしていたが、事故後はゼロになった。「補償金はいらないから元の状態を返してほしい」と訴える。
 三十代の漁師は海洋放出について「反対だったが、決まってしまった」と肩を落とす。東電に向けては「決めるなら、漁師に説明は当然するべきだ」と指摘。「原発事故で思い切り落ちたシラスの価格も、ようやく十年で回復した。たまったら流すというのもおかしい。海洋放出したら、商売にならなくなる」と怒りをあらわにする。
 他の漁師の話では、東電による説明会は昨年予定されていたが、新型コロナウイルスの影響で中止になり、その後も開かれていない。東電は本紙の取材に「説明会の必要性は認識している」と答えた。
 市内では、水産加工業に従事する人も少なくない。シラスなどの加工業を営む鉄訓一さん(56)によると、事故後、風評被害などに見舞われ、西日本での需要は激減した。震災後の補償は、加工業者には十分ではなかった。「風評被害は目に見えない」。海洋放出への心配は募るばかりだ。

◆内閣府総括官に大井川知事要望「納得できるように政府の努力を願う」

 海洋放出の正式決定を巡り、大井川和彦知事は十三日、内閣府の松永明・福島原子力事故処理調整総括官とオンラインで会談し、「決定は受け止めるが、漁業関係者が納得するよう政府の努力をお願いしたい」と求めた。
 会談は十分程度で、冒頭のみ報道陣に公開された。松永総括官は決定を伝達した上で、漁業などの風評被害防止策について「政府もできる限り対策を取るが、県や市町村の協力なしにはできない。ぜひお力を貸してほしい」と述べた。
 これに対し、知事は「自治体としても協力はするが、(政府が)地元の納得を得る努力を続けていただきたい」と重ねて要望した。
 知事は昨年二月、絶対反対を訴える茨城沿海地区漁業協同組合連合会に同調し、「白紙で検討を」と発言。だが十月の記者会見では、政府による十分な対策を条件に「容認することも視野に入ってくる」と軌道修正を図っていた。 (出来田敬司)

◆北茨城市長「条件付き賛成だ」

海洋放出決定について報道陣の取材に応じる豊田市長=水戸市で

 北茨城市の豊田稔市長は十三日、水戸市内で報道陣の取材に応じ、海洋放出について、県市長会と県町村会が昨年九月に梶山弘志経産相(衆院茨城4区)に新たな風評被害対策などを求めて提出した要望書を踏まえ、「要望をしっかりやってもらうという条件付きの賛成だ」と述べた。
 今回の政府の方針決定には「満足はしていないが、(処理済み汚染水を)国際基準以下に薄めて流すと言っているので、それを信じたい」と強調した。
 豊田市長は、漁業者への風評被害対策などの条件がそろっていないことを理由に海洋放出に反対していたが、二月の定例会見では容認する考えを示していた。この日の取材には「自分なりに勉強して、汚染を取り除いて海に放出するということから安全だと判断した」と答えた。 (松村真一郎)

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