スーパークレイジー君 独占取材 「3カ月の居住実態なく当選無効」決めた市選管とは「徹底的に闘う」

2021年4月15日 17時23分
 特攻服姿で昨夏の東京都知事選に挑んで注目を集め、1月の埼玉県戸田市議選に初当選した「スーパークレイジー君」こと西本誠さん(34)に、当選無効の決定が出た。公選法で定める「3カ月以上の居住実態」がなかったと判断された。本当に法に違反しているならやむを得ないと考えられる一方、地方議員はなり手不足がかねて指摘されている。そうした規定は必要なのか。(木原育子、中山岳)

◆アパートは他人名義だけど

 「こんなことがあっていいのかと思う。徹底的に闘います」。14日、「こちら特報部」の取材に応じた西本さんはこう強調した。

転居先のアパートで寝泊まりしていたことなど、戸田市での居住実態について説明する西本誠市議=14日、東京都千代田区で

 市選挙管理委員会が当選無効の決定を出したのは9日。昨年10月に東京都の自宅から住民票を移した先の賃貸アパートが他人名義のままだったり、郵便物の多くが本人に届かなかったりしたことなどが理由だった。アパート周辺の住民5人に聞き取りをした結果、誰も西本さんを見ていないことも挙げた。

◆「選管から立候補できると聞いた」

 これに対し西本さんは「選管から、アパートの名義人が違っても立候補できると聞いていた」と反論。日常の買い物をしたレシートや領収書の提出量が少なく、JR東日本の「Suica(スイカ)」などの利用履歴も出さなかったとの指摘には「確定申告の時期に重なり、レシートは税理士に渡してしまった。スイカは、ほとんど電車に乗らないので持っていない」と説明した。

西本誠市議

 西本さんは引っ越して以降ほぼ毎日、戸田で寝泊まりしたと述べ、告示後は市内各所で街頭演説などをしている。「戸田のアパートで寝ている3カ月分の動画でもないと認められないのか」と憤った。

◆育ての親の祖母の死で改心

 西本さんは宮崎市出身。父親は暴力団関係者で、母親は1歳の時に家を出た。その後、父親のパートナーが次々に代わり、主に祖母に育てられた。中3の時に暴走族のメンバーになり、少年院に3回入った。3度目の入院中、祖母の死に目に会えなかったことで改心。21歳で上京し、銀座のクラブなどで働くようになった。
 政治との関わりは都知事選が初めて。歌手として各地のライブハウスで歌い、ネット配信もしていたことから「知名度を上げたかった」のが出馬理由の一つ。もう一つは「自分の力を試したかった」。独特のいでたちとダンスパフォーマンスが評判になり、落選したものの約1万1900票を獲得。自信を深め、次に挑んだのが、幼なじみと親戚が住んでいて度々訪れたことがあった戸田市の市議選(定数26)だった。
 子育て政策の充実を掲げて912票を得、36人中25番目で当選。「自分も含め、さまざまな家庭がある。親の経済状態に関係なく、受けられる教育に差が出ないようにしていきたい」と今後に思いをはせていたところに出たのが、当選無効の決定だった。

西本誠市議

◆「たくさんの応援、裏切れない」

 西本さんは13日、決定を不服として県選管に審査を申し立てた。覆らなければ取り消しを求めて東京高裁に提訴するとしている。無効の確定までは、身分は市議のまま。西本さんは「都知事選を含め、たくさんの人から応援をもらった。投票してくれた人を裏切れない」と語り、政治活動を続けていく意向を示した。

◆「3カ月以上の居住実態」なく当選無効は他でも

 3カ月以上の居住実態がないことを理由に、当選や、得票が無効になるケースは各地で起きている。2019年4月以降の地方議員選で少なくとも9件あった。
 「生まれ育った場所で議員になりたかったのに認められなかった」。こう残念がるのは、同年9月の岩手県議選二戸選挙区で無投票当選を果たした後、無効と判断された松倉史朋さん(28)。二戸市出身で大学進学を機に地元を離れ、出馬を検討中だった18年に実家に戻った。
 選挙資金をためようと、投開票日の2カ月前まで群馬県太田市の自動車工場で働いた。このため、有権者の異議を受けて調査した岩手県選管は居住実態が太田市にあったと判断。松倉さんは「定期的に二戸市に戻り、商店街などを回っていた。3カ月以上の居住実態をしゃくし定規に判断された」と振り返る。

◆ルールできたのは70年以上前

選挙制度を所管する総務省が入る中央合同庁舎第2号館=東京・霞が関で

 3カ月以上の居住を地方議員選の立候補者に課す規定を盛り込んだ公選法ができたのは、70年以上前の1950年。この規定は首長選にはない。総務省選挙課の担当者は「地方自治体は地縁的な社会。その点を考慮し、議員選はそうした決まりができた。首長選は広く人材を得るために設けていない」と説明する。
 各地で当選などが無効になる例が続いたのを受けて昨年9月に施行された改正公選法は、選管に提出する宣誓書に3カ月以上居住していると記すよう立候補者に義務づけた。しかし、前出の西本さんに当選無効の決定が出たように、実効性を疑問視する見方もある。

◆深刻な地方議員のなり手不足

 一方で、地方議員のなり手不足は深刻さを増している。2019年の統一地方選で、道府県議選の総定数に占める無投票当選者の割合は過去最多の26.9%に上った。無投票は市町村議選でも相次いだ。地方だけでなく、政令市の横浜市議選の神奈川区(定数5)でも記録が残る1947年以降、初の無投票になった。北海道浜中町や愛知県幸田町などは、定員割れになった。

自転車で支持を呼びかける市議選の立候補者=2019年4月、愛知県内で

 担い手が少なくなっている地方議員選で3カ月以上の居住は必要なのか。元川崎市職員で、長く選挙事務に従事した一般社団法人「選挙制度実務研究会」の小島勇人代表理事は「地方政治を担う議員なら、選挙前の一定期間はその自治体に住んで課題などを把握するのが望ましい。居住実態を求めるのは妥当」と話す。
 ただ、少子高齢化が進む中、地方議員選に立候補しようと考える人が今後、増えるとは考えにくい。その点について小島さんは「なり手不足を解消するには、議員の待遇を改善するといった施策が不可欠」と唱える。

◆「選管の判断基準あいまい」の指摘も

 富山大の神山智美准教授(行政法)は別の見方を示す。「居住を求める期間がなぜ3カ月なのか明確な理由はなく、選管が判断する基準もあいまい」とし、「広く人材を集めるというなら議員も同じなのに、知事や市長など首長候補には求められないのもバランスを欠く」と疑問を呈する。
 近年の地方議員選には、大阪維新の会や都民ファーストの会といった地域政党の公認候補が多く出馬するようになった。神山さんは「候補者が地元に住んでいないとしても、地域政党の改革路線に共鳴して投票したいと思う有権者もいるはず。『3カ月ルール』はその選択肢を狭めている」と指摘し、こう続けた。
 「立候補者の居住地は問わず、投票前に公開して有権者が判断できるような仕組みが必要ではないか。そうすればUターンやIターンで直前まで考えて立候補しようと思う人も出てくるはず。こうした改革をしない限り、地方議員のなり手不足は続くだろう」

 デスクメモ 政治家は落選すればただの人。ある日、失業状態に陥る。そんな不安定な仕事に就きたいと考える人が少なくなるのは理解できる。とはいえ、議員のなり手がいないと地方自治の根幹が揺らぐ。「3カ月以上の居住実態」を含め、いろいろな部分を見直す時期に来ているのではないか。(千)

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