もっと見て もっと触って もっと面白い 気骨の路上博物館 3Dプリンターで標本複製

2021年4月16日 07時00分

「路上博物館」のノボリを掲げる森さん(路上博物館提供)

 博物館に最後に行ったのはいつだろうか。子どもの時以来、訪れていない人も多いのでは。こんな人たちに面白さを伝えようと、国立科学博物館(科博)の元研究員が3Dプリンターで標本を複製。怪しげなコスチューム姿で路上や公園などに持ち出し、見て触ってもらう活動をしている。

パンダの頭の骨のレプリカ。(左)はホアンホアン、(右)はトントン。同じパンダでも大きさや後頭部の形などが違う

 両手に、動物の頭がい骨の標本が二つ。「これ、何の動物か分かります? パンダです。上野動物園にいたホアンホアンとトントンの骨格標本を複製しました」
 千葉県松戸市にある一般社団法人「路上博物館」の工房で、館長の森健人さん(36)が標本を見せた。二頭は親子だが、大きさ、頭の角度、あごの動く範囲などの違いが分かる。
 室内には、ライオン、トラ、キリン、ゾウなどの骨格標本や、はく製のレプリカもある。手のひらサイズから実物大までそろう。いずれも、博物館に収蔵される実際の標本を複製。本物と同様に標本番号も付いている。

千葉県松戸市の路上博物館の工房でレプリカの作り方を説明する森健人さん

 森さんは、科博の元研究員。標本を写真から複製する技術を持つ。まず、あらゆる角度から標本の写真を千枚近く撮影する。画像をパソコンに取り込み、三次元情報をデータ化。3Dプリンターで再現する。
 学生時代、次世代の博物館のあり方として「モバイルミュージアム」という考えを学んだ。携帯電話のように、どこにでも標本を運び出し、企業などで展示する試みだった。
 森さんは「企業に来ない人にも見てもらおう」とポケットに標本のレプリカを入れ、一人で繁華街の居酒屋へ。「流しの歌手」ならぬ「流しの学芸員」を試したこともある。

野外イベントで標本のレプリカを子どもたちに触ってもらう森さん(右)(路上博物館提供)

 科博の支援研究員になってからも「標本を開放し、閉じこもった博物館を打ち破らなければいけない。対極にあるのは路上だ」と考えた。
 二〇一八年春、シルクハットに黒ずくめのコスチューム姿で「路上博物館」のノボリを掲げ、上野公園の路上へ。通りすがりの人たちに標本のレプリカを手に取ってもらい、説明する活動を始めた。
 「博物館に興味のない人でも、標本を実際に手に取れば、面白いと思ってくれる」と手応えを感じた。二カ月に一回程度、活動を続けた。各種のワークショップを企画する斎藤和輝さん(30)に声をかけられ、意気投合。二〇年五月、二人で社団法人を立ち上げた。

路上博物館が制作した3Dプリンターレプリカ(試作品含む)

 これまで科博や、米国のスミソニアン博物館、関東各地の博物館など約十カ所から、標本の複製許可を得た。コロナ禍で路上の活動は減ったが、科博と契約を結び、レプリカのネット販売も始めた。売り上げの一部を科博に渡し、標本作りの費用にしてもらうことも目的にしている。
 森さんはこう訴える。「標本は科学研究のための存在と思われがち。でも、自然の物は『かっこいい』とか『かわいい』とか、科学以外の価値観で気軽に見たっていい。博物館はもっと面白い」
 文・宮本隆康/写真・由木直子
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3次元データを取るため標本を撮影(路上博物館提供)

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