時代を撃つノンフィクション100 佐高信著

2021年4月18日 07時00分

◆タブー暴いた作者らの魂継ぐ
[評]永田浩三(武蔵大教授)

 タイトルには百とあるが、紹介される本はその倍以上。オリンピックから原発までを仕切る広告会社、政党と暴力団とのつながり、土地取引の闇の帝王、与党を支える宗教団体など、現代日本のタブーに挑戦する本がこれでもかと並ぶ。出版社はよくぞ出したり。著者との交流や知られざる人間模様を詰め込んだチャーミングな一冊だ。
 トップに紹介されるのは、永山則夫の『無知の涙』。一九七一年に著された連続射殺事件の死刑囚の手記。著者は本の中身に深入りせず、同じ津軽を故郷に持ち、貧困から逃れるために東京に出て働いた鎌田慧と永山との交流に着目した。ある日鎌田のところに永山から手紙が届き、以来長いやりとりが続いた。著者は思う。厳罰に処されるべきは個人ではなく、格差や差別を生みだす社会や政治の方ではないだろうかと。
 紹介される本の書き手は有名な人ばかりではない。時にはトップ屋・銀バエなどと貶(おとし)められるフリージャーナリストたちの作品が並ぶ。都合の悪いことを書かせまいとする企業の壁をかいくぐり内実を暴いたものも多い。かつて経済記者だった著者の目線は低く、慈愛にあふれている。
 本田靖春の『私戦』。静岡県寸又峡の旅館に立てこもった在日韓国人・金嬉老(キムヒロ)が日本国家にたった一人で戦いを挑んだ記録だ。文芸評論家の篠田一士は「月並みなプロテストをまぶした読みもの」と酷評した。それに著者は異を唱える。金や彼の母を追い込んだのはわれわれの社会なのである−と本田が書いたことを高く評価し、昨今のヘイトスピーチを知ったら、悶死(もんし)したに違いないとつづる。
 「墨で書かれたタワ言は血で書かれた事実を隠しきれない」。魯迅の言葉だ。本の底流には常に民衆とともにあろうとした魯迅のこころが流れ、それが優しさを醸し出す。
 作者の多くはこの世にない。著者は生き残った者として、その魂を引き継ぐ。筆は鋭い毒を帯び、クスッと笑える諧謔(かいぎゃく)に満ちている。ノンフィクションってこんなにもすごい。若者たちにも薦めたい。
(岩波新書・902円)
1945年生まれ。評論家。『池田大作と宮本顕治 「創共協定」誕生の舞台裏』など。

◆もう1冊 

高木仁三郎著『市民科学者として生きる』(岩波新書)

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