ニュー・アソシエーショニスト宣言 柄谷行人著

2021年4月18日 07時00分

◆マヌケな奴に迫るヤバい本
[評]松本哉(リサイクルショップ「素人の乱5号店」店主)

 「こんなところで演説するのは初めて」と、柄谷行人氏がひょこっと新宿駅前の大群衆の前に現れたのが十年前の反原発デモの時。実は大御所なんだけど、思想界に疎い我々(われわれ)の中では「謎の新人が現れた!」と衝撃が走った。
 その後、海外の若者たちと交流を深めていく中で、柄谷行人がアジア圏で大ブームになっていることを知る。台湾では講演会が若者たちで超満員になってるし、韓国や中国でも若者たちから柄谷さんの話をよく聞いた。初めて柄谷さんの本の内容を聞いたのも台湾の二十代のバンドマンからで、「ABCDっての知ってるか? Dがヤベーんだよ!」とか説明してくれるが、訳がわからない。つい先日も北京に住むカナダ人の友人から「英語版はないの?」と連絡が来た。みんな読んでて心細くなったんだろう。いったい何が起きているんだ!?
 さすがに観念して、この書の序文を少し読み進めてみると、いきなり台湾バンドマンに教わった謎のABCDが出てくる。これまでの世の中は、村人(A)、ヤクザ(B)、商人(C)みたいな奴(やつ)らが交互にウロチョロして成り立ってきたが、どれも嫌だっていうやつらが意味不明な価値観で勝手なことをやり始め(D)、それが必然だという、いきなりブッチギリの論を展開。これは、金や権威や権力が嫌になった若者たちによって地下文化が急拡大しているアジア圏でウケるわけだ。
 ちなみにこの謎のABCDが初めて提唱された二十年前に比べ、世の中は更(さら)にカオスになり、世界の人々は、金も権力者も信じなくなり、どんどん勝手なことをし始めている。この書では、かつての提唱をおさらいした上で、その後の展開や実践、デモや運動、勝手な奴らについても書かれている。つまり、いま世界中のマヌケな奴ら(D)に衝撃を与えている現象の秘密がここに書かれている。
 反原発デモの頃、柄谷さんしきりに「私はマヌケなんですよ」とか言い出してて、なんのことかと思ったけど、なるほど、そう言うことだったのか!! これはヤバい本だ!
(作品社・2640円)
1941年生まれ。思想家。著書『世界史の構造』『憲法の無意識』など多数。

◆もう1冊

山下陽光著『バイトやめる学校』(タバブックス)。奴隷のように日々働くのが一瞬でバカバカしくなる本。これも柄谷の言う「D」の一種では。

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