密着取材で見えた「愛」 『絆−棋士たち 師弟の物語』 カメラマン・野澤亘伸(のざわ・ひろのぶさん)(52)

2021年4月18日 07時00分
 東京・池袋の大型書店の壁面に、将棋の棋士たちの写真が並んでいる。渓谷を散策する羽生善治九段、酒場で杯を傾ける木村一基九段、にこやかに並ぶ藤井聡太王位=棋聖=と杉本昌隆八段の師弟−。休息中の勝負師たちの柔和な表情に、多くの客が足を止めて見入る。
 撮影者の野澤亘伸さんは写真週刊誌『フラッシュ』専属カメラマンとして、数々のスクープ写真を発表してきた。発展途上国を巡っての報道写真、世界の昆虫写真、アイドルの写真集など活動は幅広い。二〇一八年、将棋の師弟制度に着目した初のノンフィクション『師弟』を刊行すると、徹底した取材で描き出した濃密な人間模様と、棋士たちの内面が伝わる写真とが話題になり、将棋ペンクラブ大賞を受賞した。
 「江戸時代から脈々とつながる棋士の系統図を見るのが昔から好きだったんです。先人たちがどういう思いで将棋をつないできて、最前線に立つ若い棋士たちの今があるのか、ひもといてみたかった」。自身も小学時代に将棋を始め、高校では将棋部部長を務めるなど熱中した。フラッシュでの駆け出し時代、カメラマン詰め所まで挑んでくる編集部員に連戦連勝。「将棋の話は野澤に聞け」という“定跡”が部内に残り、本の執筆につながった。
 続編となる本書では八組の師弟に密着、勝負の世界に生きる棋士たちの新たな側面を引き出した。前書きに<師弟という関係性でアプローチすることで、意外な一面が見えてきた>と記している。「師匠の息吹が今まさに聞こえているような表情で語る棋士もいれば、何期もタイトルを取った今でも師匠の前では緊張するという棋士もいる。その関係はひと言でいうと『無償の愛』でした」
 大学時代、アフガニスタンで地雷を踏んで死んだ写真家、南条直子の手記に感銘を受け、写真の道を志して約三十年。取材・執筆と撮影を同時に手掛けるのが「理想のスタイル」と気づいたという。「まずはじっくり話を聞き、相手の中に自分が深く入っていく。その上で撮れば相乗効果が生まれる。今後も興味のある対象と素直に向き合い、節操なく撮り続けたい」
 発行・日本将棋連盟、販売・マイナビ出版。一九九一円。 (樋口薫)
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 『師弟』文庫化と『絆』刊行を記念した写真展はジュンク堂書店の池袋本店(東京都豊島区)などで開催中。

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