<くるみのおうち>(4)給食記念日 ついに一口、拍手喝采

2021年4月18日 07時20分

8歳の誕生日を迎えた直樹さん。ついに給食を食べられたお祝いも兼ねて、好物のエビフライが食卓に並んだ=2009年撮影(太田修嗣さん提供)

 赴任先のドイツから帰国した二〇〇八年、川崎市で息子直樹との二人暮らしが始まりました。自閉症の息子には、感覚過敏や偏食、物事へのこだわりが強い時があり、当時は特にピンク色が大の苦手。近くにピンク色のものがあると落ち着かなくなりました。
 さまざまな混乱や環境の変化があったからでしょう。小学二年の直樹は、市立小学校の特別支援学級に転入しましたが、それから十カ月間、給食を一切口にしませんでした。
 給食を食べたい気持ちはあるのに、学校という集団の中で食べることにためらいがあったのかもしれません。このため朝食には、腹持ちのいい餅を食べさせるなど工夫していました。
 そして翌〇九年一月十九日。私は、息子が初めて給食を食べられるかもしれない、という予感がありました。その日は、直樹の八歳の誕生日でした。
 私は息子に食べるきっかけを与えたくて、学校に協力をお願いし、勤務先の昼休みに自転車で学校へ。教卓に隠れてしまった直樹に、私が給食を一口分差し出すと、ついに食べることができたのです。
 ともに机を並べて交流する通常学級のクラスメートも、その瞬間を見守っていました。「直くん、すごい!」「やったー」。教室内は拍手喝采に。直樹は照れくさかったのか、教室を出て行ってしまいました。
 これまで越えられなかった壁を、息子が越えた喜び。たった一口ですが、私たちにとっては大きな一歩でした。周りにも「給食を食べたからって、それがどうした」という反応は、全くありませんでした。
 みんなで喜びを分かち合う姿から、直樹をよく理解してくれていることが伝わってきました。心から感謝するとともに、同じクラスでともに過ごすことの大切さを実感しました。夕食は息子の一番の好物エビフライを用意して、お祝いしました。
 その日以来、息子は給食を食べられるようになりました。しかし三年になると、順調だった日々に暗雲が漂います。息子はみるみる元気をなくし、「学校に行きたくない」と言うようになり、再び給食も食べなくなりました。
 所属していた特別支援学級に児童が新たに転入し、先生も入れ替わって、環境が大きく変わったことがきっかけでした。 (太田修嗣・NPO法人「くるみ−来未」理事長)
 ◇次回は二十五日に掲載予定
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