<ブルボン小林 月刊マンガホニャララ> (24)「男らしく」とか 「女らしく」とか

2021年4月19日 07時08分
 某雑誌の漫画特集でオススメ作品を問われた。「『男らしく』とか、『女らしく』とかうるさい! と感じている人にオススメの漫画」を挙げてくれという。
 違和感を抱く。漫画の世界は割と、男らしさや女らしさに対して最初から自由な表現だからだ。
 もちろん、男たるものと根性を説き、マチズモを強調する漫画もあったし、結婚して子供を産むことこそ女の幸せだと説く『美味(おい)しんぼ』のようなヒット作品もあったが、今やもう広く支持されてはいない。
 一方で漫画という仕組みには、同じ人物を少年にも少女にもみえるように描けるという特性がある。『リボンの騎士』のように女性の王子が活躍し、『らんま1/2』のように性別をあっけらかんと行き来する主人公もフツーに描かれてきた。
 「うるさい!」という現実世界の声の高まりに水をさすつもりはない。男らしく、女らしくという価値観に連なるセクハラや、性的少数者(LGBTなど)に対する偏見、性差別をなくしていくことは(無理解、無知な者が多いので)声を高めなければ推進していかないだろう。声が持続したからこそ『美味しんぼ』の女性観がようやく風化してきたのだともいえる。
 でも「漫画」それ自体はスローガンや主張ではない。「男らしくとか女らしくとかうるさい!」と思う人の溜飲(りゅういん)を下げるためのオススメを選ぶのに、僕は難儀した。
 それでなんだかフラフラと選んでしまった『ハコヅメ』は、めちゃくちゃ「男らしさ」が求められる警察組織で働く女性警官たちの話だ。

泰三子(やすみこ)『ハコヅメ』 *『モーニング』(講談社)で連載中。既刊16巻。

 作中ではセクハラが横行している。最新刊でも、主人公は上官に出会って二秒で「彼氏いないの?」「まだ経験ないの?」とか言われてる。完全にアウト! 作中の女性たちはときに言いかえすが、おおむね無表情でやり過ごしている。
 警察は犯罪をなくすのが仕事だ。現在進行形で凶悪な犯罪者を捕まえ続けなければならないという命題に対し、ときにセクハラするのだとしても男性警官たち(の屈強な体力)が必須だという、良い悪いとは別の「現状判断」がある。
 男たちもだ。義父にレイプされ続ける少女から正確な証言を引き出すことは、男にはできない。女性が絶対に必要と彼らも分かっている。
 ここにおいて、男女は臨時の(でありつつ持続的な)共闘関係にあり、その現状が高解像度でリアルに示され、圧倒される。

けんかし合う上司(ヤクザではありません)に書類を渡せない主人公たち=泰三子『ハコヅメ』16巻から

 チャイルドシート不使用で路上に投げ出されて事故死した赤ん坊を、主人公はただ目撃する。女性も、男性警官も、幼児期に受けた性暴力のトラウマ(心的外傷)を抱え、苦悩し続ける。それらに対し鉄拳制裁のようなスカッとする捕物を描かない。作者が特に子供への暴力に対し、実は深く怒っていることが、声高な主張は決してないままジワジワ伝わってきて、目が離せない。先の「うるさい!」という気持ちの人も、溜飲は下がらないかもしれないがきっと、別解が得られるだろう。
 セクハラもすぐには改善しないが、最新刊では若手の男性警官が上司を諭す場面もある。漫画世界内でも、世代交代とともに風化していくと思いたい。なお、こんなにハードなのにギャグ漫画としても出色。全盛期の『パタリロ!』に匹敵するギャグで、お腹(なか)がよじれる。
 (ぶるぼん・こばやし=コラムニスト)
 *次回は5月17日掲載。題字とイラストは中山墾(こん)さんです。

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