東京五輪「スパッとやめる」とき? 自民・二階氏も言及、海外から開催見直し求める声

2021年4月19日 18時46分
 自民党の二階俊博幹事長が東京五輪について「とても無理だということならスパッとやめなきゃ」と発言。その釈明でも「何が何でも開催かと問われれば、それは違う」と、中止の可能性に言及した。何があっても開催という今までの姿勢から転換したように思える。世界最高権威の英医学誌からは「開催は再考されるべきだ」とズバリの直言もあり、もはや開催強行は国際問題になりかねない情勢。開会まで97日、今が決断のときでは。(佐藤直子、木原育子)=2021年4月17日東京新聞朝刊に掲載=

◆英医学誌の論文「安全でも安心でもない」

 「今年の夏の開催計画は緊急に再考されなければならない」。今夏の東京五輪・パラリンピックについて“直言”した論文が14日、英医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)」のサイトで公開された。

「東京五輪の開催再考を」と訴えるブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)のウェブページ

 執筆者には英エディンバラ大教授のデビ・スリダー氏、英キングス・カレッジ・ロンドンの渋谷健司氏、国立病院機構三重病院の谷口清州氏らが名を連ねる。
 論文は、五輪の開幕まで100日に迫る中、世界がまだ感染拡大の真っただ中にあり、変異株が国際的な懸念になっていると指摘。五輪のような国際的イベントは「安全でも安心でもない」とし、その代わりに「公衆衛生と社会的政策を維持しながらワクチンを広く普及させ、保健システムを強化して感染拡大の封じ込めを加速すべきだ」と説く。

◆「日本はウイルス封じ込めていない」

 五輪開催地の日本については「ほかのアジア太平洋地域の国々と違って、日本はいまだに新型コロナウイルスを封じ込めていない」と指摘。「限られた検査能力とワクチン接種の遅れは政治指導力の欠如による。医療従事者やハイリスクの集団さえ、東京五輪開催前までにワクチン接種は間に合わないだろう」との見方を示している。

◆医学誌掲載の意味は…

 ところでBMJとはどんな医学誌なのか。NPO法人医療ガバナンス研究所の上昌広理事長によると「イギリス医師会が発行している、医師なら教養として読んでおくべき世界的医学誌の1つ。同じ英国の科学誌『ネイチャー』と同じような権威がある」と語る。
 その特徴は、一般臨床分野の専門誌であることだという。「世界の医師たちのコンセンサスが詰まったような専門誌だから、今回のような論文が出るともう、世界の医師が五輪開催に反対していると言っているようなもの。政治的なメッセージではなく、あくまでコロナ収束の見込みが今はないから、再考せよという純粋医学的な意見だ。開催可能とする議論の余地はないということだ」と言う。
 上氏は、文中に何度も「must(ねばならない)」という命令的な強い言葉があることに注目。「こうしたことは本来、日本の専門家会議が指摘すべきこと。公衆衛生の国際的原則を順守せよというこの論文の重みを、日本は重く受け止めるべきだ」と語る。
 国際ジャーナリストの高橋浩祐氏も「論文の指摘を一部の医師の批判と考えるべきではない。利害が絡まって五輪見直しや中止に言及する人が日本には少ないのが残念だ」とみる。

◆海外報道「ショー続ける必要あるか」

 今回のBMJ以前から、海外からは五輪開催に批判的な報道が続いている。
 12日付の米紙ニューヨーク・タイムズは、日本でコロナ感染が収まらず、ワクチン接種も滞る中での東京オリンピック開催は「最悪のタイミング」。日本と世界にとって「超感染拡大イベント」になる可能性があると伝えた。英紙ガーディアンも12日、「ショーを続ける必要があるか」と東京五輪開催を疑問視する論説を電子版に掲載。コロナ禍で初の五輪開催にこだわり続ける日本を批判している。

◆「何があっても開催」派だった二階氏も…

 こうした海外からの声が届いたのだろうか。
 「無理だということなら、こりゃもう、スパッとやめなきゃいけない」。二階氏は15日のTBSのCS番組収録でそう発言した。

あごマスク姿で衆院本会議に臨む自民党の二階俊博幹事長(右)=15日、国会で

 司会者役が「そんな選択肢もあるんですか」と聞くと、二階氏は「当然ですよね。オリンピックで、たくさんの感染病(感染症)を蔓延まんえんさせたって言ったら、何のためのオリンピックかわからないですよ」。
 これまで「自民党として開催促進の決議をしても良いくらいに思っている」などと強調し、「何があっても開催」派だった二階氏とは思えない発言。それだけに「すわ中止か」と反響が広まり、同日午後に釈明コメントを出したが、その中でも「何が何でも開催するのかと問われれば、それは違う」と、事実上中止の選択肢を認めた。

◆火消しに走る五輪相

 菅義偉首相、加藤勝信官房長官、小池百合子都知事、丸川珠代五輪相らは火消しに走り、「叱咤しった激励ではないか」(丸川氏)などとかわした。だが、もはや発言の整合性がない。小池知事は15日のモニタリング会議後、首都圏で1日当たり300万人が移動していることに触れ、「通勤も含め、都外に住むエッセンシャルワーカー以外の方は可能な限り東京に来ないでいただきたい」と発言したが、これで3カ月後に「東京五輪は見に来て」と言えるとは思えない。

小池百合子知事

 東京や神奈川、大阪も緊急事態宣言解除後最多の感染者数を記録し、変異株による感染も拡大中。やはりBMJの直言通りに再考すべきではないか。

◆「自国で決められないのは、恥ずかしい」

 国際医療福祉大の高橋和郎教授(感染症学)は「現実的には開催は難しい」と率直に言う。BMJでの指摘も承知しており、「日本の状況も情報収集した上で発表している。自国で決められず、外から言われるのは恥ずかしい。早めに決断するべきだ」と訴える。
 医師で医療ジャーナリストの森田豊さんも「英国株だけではなく、南アフリカ株やブラジル株なども入ってくる可能性がある。選手が重症化した場合の医療体制を考えても、開催は厳しいのでは」と投げかける。

◆中止決断のハードルは

 そうなると中止決断の足かせは何か。開催都市契約に詳しい松本泰介・早稲田大准教授は「契約では、日本側に大会を開催する義務があると明記されている。天災などで契約が実現できなくなった場合の義務を免除する条項はない」と説明。中止が合意できないと、日本側はスポーツ仲裁裁判所に損害賠償を申し立てられる可能性があり、松本氏は「交渉しなければならない難しさがある」と話す。
 ただ、2016年に東京五輪の招致推進担当課長を務めた鈴木知幸・国士舘大客員教授は「契約は、開催都市側が勝手に契約解除できないよう紙面上定めているだけにすぎない。延期した際も、国際オリンピック委員会(IOC)側は日本側に延期を提案させようとしていた」と話す。つまり、日本側から中止を言い出すことは不可能ではない。
 二階氏の発言が観測気球なのかはわからないが、もはや政治決断は避けられないようにもみえる。
 政治評論家の森田実氏は「『五輪中止』と言ったら、あの二階さんでも一斉に袋だたきに遭うような日本の政治現場は今、異様な雰囲気だ。二階さんは常識論を言ったにすぎない。中止も含め五輪をどうするのか決断する時だ」と語る。
 もはや猶予はないが、コラムニストの小田嶋隆さんは、「中止の先」を見据え、小池氏がその決断を政治的アピールに使うのではないかと見立てる。「日本の世論は『よく決断した』と美談に持ち上げる可能性があるが、本来、どう責任をとるのか、追及しなければいけない話。政治利用されないよう、警戒しなければならない」

デスクメモ  欧米に比べ死者数が少ないから、などとまだ「日本スゴイ論」を唱える向きもあるが、日本のコロナ対策の有効性は科学的に裏打ちされていない。対策の優劣を競う五輪大会があるとしたら、日本は予選落ちレベルだというのが世界の見方だ。潔く敗北を認め、早く決断すべきだ。(歩)

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