記者会見で質問スルー、現地にいるのに電話会談…菅首相の訪米珍道中、識者の評価は?

2021年4月20日 12時00分
 ハンバーガーを前に、マスクをしたまま見つめ合ったかと思えば、現地にいるのになぜか電話会談。菅義偉首相が対面で初の日米首脳会談を終えて18日に帰国した。いくつか成果が報じられているが、訪米中には「おや?」と首をひねる出来事もあった。菅さんの珍道中を振り返りつつ、識者に今回の訪米をどう評価しているか聞いた。 (石井紀代美、榊原崇仁)

◆テーブルの上のハンバーガーはどうなった?

バイデン米大統領(左)と会談する菅首相。昼食にハンバーガーが用意された=16日、ワシントンのホワイトハウスで(バイデン大統領のツイッターより)

 マスクをした菅さんとバイデン米大統領が、ハンバーガーを置いたテーブルに向き合っている。米国現地時間の16日昼すぎに始まった日米首脳会談の一幕だ。
 このハンバーガーはどうなったのか。「まったく手を付けずに終わってしまった。そのぐらい会話に熱中した」。菅さんは記者団に語った。
 男子ゴルフのマスターズ・トーナメントを制した松山英樹選手などが話題に上ったという。とはいえ会談時間は20分。「会話に熱中」とアピールするわりには、ちょっと短くないか。

◆鳩山さんは「とにかく仲良しを演出」と分析 呼び方も…

 「通訳を入れたら両者各5分ぐらいしか話す時間がないと思う。その中で日本としていろいろ言わないといけないこともある。『時間が無くてハンバーガーに手を付けられなかった』のが正直なところでしょう」
 こう推測するのは鳩山由紀夫さん。民主党政権時代の首相で、当時のオバマ大統領と会談している。さらに鳩山さんは「聞くところによれば、外務省は当初、夕食会を希望していたが認められなかったようだ。とにかく仲良しを演出したいのだろう」と語る。
 演出の一つが互いの呼び方。会談では「ジョー」「ヨシ」と呼び合ったと伝えられる。鳩山さんは首をひねる。「対面する前の電話協議で、ファーストネームで呼び合うと決めるのはいかがなものか。普通、会談の回数を重ねるうちに自然にそうなるものでは」

◆共同記者会見でアメリカ側記者の質問をスルー

共同記者会見をする菅首相(左)とバイデン米大統領=16日、ワシントンのホワイトハウスで(首相官邸のツイッターより)

 バイデンさんとともに臨んだ共同記者会見では、官房長官時代を思わせる菅さんの「質問スルー」も話題になった。質問したのは、ロイター通信の記者。バイデンさんにイランの核濃縮問題、菅さんにはコロナ禍での五輪開催を「無責任では」と聞いた。
 まずバイデンさんが答え、続いて隣の菅さんに発言を促すようなしぐさをした。ところが菅さんは答えないまま、「じゃあ日本側から」と言って共同通信の記者を指名してしまった。
 「イヤホンの同時通訳で質問は間違いなく菅さんに届いている。記者は市民を代表し、海外が今最も注目していることを質問する。スルーはとんでもない」と鳩山さんは語る。

◆電話で済む会談なら、さっさと済ませてほしかった…

 新型コロナのワクチンでもおやっと思うことが…。米国に行ったのに、供給元の米製薬大手・ファイザーのトップとなぜか電話で会談したのだ。電話で済む話なら、訪米まで待たずに1日も早く済ませてほしかった。そう思う人もいるだろう。鳩山さんも「電話なら東京にいても、できる話。供給の前倒しといっても、なぜ五輪後の9月なのか」と感じた。
 そして、鳩山さんは今秋には確実に行われる衆院選に絡め、「その前にワクチンを、ということでは。いずれにしろ、ワクチン供給が進むイスラエルや英国よりも、日本が大事にされていないということでしょう。今回の会談は、仲良しをアピールしたかっただけ。日米は、貢ぎ物を持って会いに行く『朝貢外交』のような間柄になっていないか」とため息をついた。

◆「バイデンさんの最初の会談相手」を得点に

会談前、拳を握るしぐさを見せるバイデン米大統領(左)に、同じポーズで応える菅首相=16日、ワシントンのホワイトハウス(首相官邸のツイッターより)

 この訪米の珍道中を政治や外交の専門家はどう見たのか。
 明治大の海野素央教授(異文化間コミュニケーション論)は「菅さんは米国との蜜月ぶりを演出して支持率アップにつなげたかったはず。これからアピール材料に使うだろう」と語る。
 国内では、米大統領と早く会談したことが「得点」と目される。海野さんは「菅さんもそれを意識し、『バイデンさんと対面で会った最初の外国首脳』という、うたい文句が欲しかったのではないか」とみる。内政では総務省幹部の違法接待やコロナ対策の遅れなど、問題が山積。外交の得点で、失点を挽回しようということのようだ。

◆バイデンさんの重視する「チームワーク」の意味は

 では、菅さんを最初の会談相手に選んだ米側の思惑はどうか。
 海野さんは「中国との対峙たいじを最重視するのがバイデンさん。対中の矢面に日本を立たせるため、『最初に会いたい』というラブコールに応じたのだろう。バイデンさんはチームワークを重視する。それは、『それぞれに相応の役割を任せる』ということ。日本に今後、軍事的な負担を求めるかもしれない」と見通す。

◆台湾への記述が半世紀ぶりに盛り込まれた背景は

会談に臨む菅首相(左)とバイデン米大統領=16日、ワシントンのホワイトハウス(首相官邸のツイッターより)

 対中という点では、共同声明に「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する」とあるのがポイントだ。地理的、経済的に日本と結びつきが強い中国を刺激する記述が、なぜ半世紀ぶりに盛り込まれたのか。
 琉球大の我部政明名誉教授(国際政治)は「経済面で中国との対決姿勢を強めたのが前大統領のトランプさん。バイデンさんは安全保障まで含めて厳しく対峙している。その点を踏まえると、台湾絡みの記述を盛り込んだのは米側から提案があったからということになるだろう」と推測する。
 日本側としては、中国との関係悪化は避けたいはず。それでも提案に応じたのは、中国側が領海侵入を繰り返す尖閣諸島の問題が理由のようだ。我部さんは「米国の支援を確実に引き出すには台湾の話に乗らざるを得ないと判断したように思う」とも語った。
 だが、軍事的な連携を強めれば、当然ながらリスクも増える。「中国は沖縄の米軍を脅威と見なすはず。攻撃を受けるのは米軍のみか。民間人は巻き込まれないか。沖縄だけの問題にとどまらないかもしれない。米軍基地は日本の他の地域にもあるわけだから」

◆質問スルーは「菅さんにとってもマイナス」

 一方、東京五輪の開催を巡っては、バイデンさんが菅さんの努力を支持すると共同声明に記された。では万々歳かというと、政治アナリストの伊藤惇夫さんは「かなり微妙な書きぶりだ。肩透かし感が強い」と感じた。「開催への全面協力」を感じさせる言葉がなかったからだ。
 さらに伊藤さんは、共同会見での「質問スルー」にも触れる。「気に入らない質問に取り合わなかった官房長官時代の悪癖が出た。あれは菅さんにとってもマイナス。開催に向けた具体策を挙げて堂々と反論しないと不信を買うだけ」

◆東京五輪開催に対するバイデンさんの本心は…

 やはり知りたいのは、五輪に対するバイデンさんの本心だ。
 海野さんは「彼は公衆衛生の専門的知見に重きを置く。それは大統領選の選挙運動を見ても明らか。マスクの着用を徹底し、集会も小規模にとどめた。そんなバイデンさんから『開催を強く支持する』というメッセージが出てこなかったのは、日本の現状が安心できないと受け止められているから」とみる。
 その上で海野さんは「共同声明にある『努力を支持』という文言は、中国に対峙する上で日本を取り込むための『お土産』にすぎない。五輪開催を強行すれば冷ややかな視線を浴びせられるだけ。招待されているバイデンさんも来日しないと思う。声明の文言から『訪米は大成功だった』と考えるのは誤りだ」と語る。

 デスクメモ  もし米国が中国との対決姿勢をさらに強めたら…。「中距離ミサイルを南西諸島に置かせてくれ、とならないか」と鳩山さんは、不安を口にした。冷戦時代に論議を呼んだ「不沈空母」という言葉が頭をよぎった。そういえば当時、日米首脳は「ロン」「ヤス」と呼び合っていた。(裕)

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