「ミナリ」米アカデミー賞6部門ノミネート 分断が進む米国で共感される理由

2021年4月21日 12時00分

映画「ミナリ」で祖母スンジャを好演した韓国人女優のユン・ヨジョンさん=Ⓒ2020 A24 DISTRIBUTION, LLC   All Rights Reserved.

 韓国系米国人の家族を描いた映画「ミナリ」が、欧米の映画祭で快進撃を続ける。米アカデミー賞では作品賞など6部門にノミネートされ、25日の授賞式で栄誉が期待される。米国社会の分断が深まる中、ミナリに共感する観客が少なくない理由を探った。(ソウル・相坂穣)

◆失敗しても立ち上がる移民の生命力

 ミナリは東アジア原産の野菜セリの韓国語名。韓国の江南(カンナム)大グローバル文化学部の姜由楨カンユジョン教授は「どこでも育つ生命力の象徴。厳しい所で努力し、失敗しても立ち上がる韓国人移民をよく例えた」と語る。
 1980年代、米南部アーカンソー州の田舎道を進む車。後部座席に乗った韓国系のデビッド少年と姉のアンの目線で、物語は始まる。父ジェイコブと母モニカは、ヒヨコの雌雄鑑別の仕事で生計を立てながら、井戸を掘り、韓国野菜をつくる農業に挑む。
 デビッドは重い心臓病を患っており、モニカは韓国から自分の母親であるスンジャを呼び寄せ、世話を任せる。デビッドは当初、スンジャになつかなかったが、片言の英語を懸命に話しながら、花札を打って孫を楽しませようとする個性的な祖母に心を開いていく。

映画「ミナリ」の1シーン。米アーカンソー州に移住し、開墾を始めた父ジェイコブとデビッド少年(手前)=Ⓒ2020 A24 DISTRIBUTION,LLC  All Rights Reserved.

◆デビッドは幼い頃の監督自身

 78年生まれの韓国系米国人であるリー・アイザック・チョン監督の自伝的作品で、デビッドは監督の幼き日の姿だ。米人気俳優のブラッド・ピット氏が製作支援した米映画だが、主要な登場人物の多くを韓国人俳優が演じ、せりふの50%以上は韓国語。
 アカデミー賞の前哨戦とされるゴールデングローブ賞でミナリは外国語映画賞を受賞したものの、主要部門の作品賞候補から外れた。「米国が舞台なのに外国映画扱いされたのは残念」と議論も呼んだが、ミナリは全米各地の映画祭で観客賞などを受賞。祖母役を好演した韓国人女優ユン・ヨジョンさんは全米映画俳優組合賞の助演女優賞に輝くなど、評価を高めている。

江南大の姜由楨教授=本人提供

 姜教授は「移民の国である米国が移民を差別し、障壁を高めた自覚の表れだろう。作品に登場する白人らも韓国人を珍しがるが、差別したり、独りぼっちにしたりしない」と解説する。
 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、欧米ではアジア系に対する差別が社会問題化。3月には、南部アトランタで韓国系住民ら8人が死亡する銃撃事件も起きた。姜教授は「アジア人がどんな夢を持って、米国に来て、定着するようになったのか。素朴でありながら、感動的に伝えるミナリが共感を呼んでいる」と語った。
 ミナリは、日本ではギャガの配給で、TOHOシネマズシャンテなど全国ロードショー中だ。

◆家族愛など普遍的価値に評価 高麗大・尹教授

 韓国系米国人は現在、米国人口の0.7%、約250万人に達し、各界で影響力を増しつつある。彼らはどんなアメリカンドリームを抱き、生きてきたのか。高麗大社会学科の尹麟鎮ユンインジン教授に語ってもらった。

高麗大社会学科の尹麟鎮教授=本人提供

 米国への移民の最盛期は1970~80年代。韓国で大学教育を受けた都市生活者が、韓国では夢をかなえにくいと渡米した。1世は英語能力の問題があり、クリーニング、青果店などを家族経営した。ミナリの家族も教会に通うが、韓国系米国人はキリスト教徒が70%を占め、教会が社会文化教育の中心だ。
 親は子どもの教育に情熱を注いだ。2世らは大学教育を受け、医師や弁護士、公務員、企業の管理職なども増えた。92年に韓国人経営の店などが被害を受けたロサンゼルス暴動の影響も大きい。2世が親世代を支援する中で、少数民族の権利や限界を認識し、政界に進出した人も多い。
 ミナリが、西洋で高い評価を受けるのは、移民1世の逆境と苦難、家族の葛藤ではなく、多くの人々が共感できる普遍的価値が盛り込まれているからだ。
 米国の道徳的な主流層は国内の不平等が深まり、麻薬や銃器犯罪が増え、人種主義がひどくなる現状を「喪失の時代」と捉えている。ミナリは米国が持っていた伝統的な家族愛などの価値を再び見せている、と肯定的に受け止めている。

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