ラグビー協会に何が起きたのか? 改革進めていた女性の外部理事が突然の解任

2021年4月21日 18時00分
 新リーグの発足を来年1月に予定している日本ラグビー協会で、谷口真由美理事が2月、新リーグ法人準備室長を解任された。女性の外部理事として登用され改革を進めていた最中の出来事で、唐突な上に理由も判然としない。準備室長就任当初の華々しい露出ぶりと対照的に、解任はしばらく公表されなかった。何が起きたのか。(大平樹)=2021年4月19日東京新聞朝刊に掲載

ラグビー新リーグについて記者会見する谷口真由美理事(左)ら=2020年1月、東京都港区で

◆退任のあいさつもなく

 「室長を外れてもらう」。谷口氏によると、協会の岩渕健輔専務理事から2月17日の理事会直前、オンライン会議システムを通じて、こう伝えられた。理事会で解任が決まり、退任あいさつも行われなかった。
 大阪大非常勤講師だった谷口氏が任期2年の理事に就いたのは2019年6月。父親が実業団チームの元ラグビー選手で、地域スポーツ団体の活動などを通じてラグビー関係者との人脈があったのが縁。民放でコメンテーターを務めた知名度のほか、ジェンダー、人権などの現代法研究者としての経験も買われた。協会はスポーツ庁から、外部や女性の理事の割合を増やすよう求められてもいた。
 準備室長には20年1月に就いた。協会幹部たちが「何があっても支えるから」と依頼し、新リーグ参加チームの1部・2部の振り分けを担う審査委員長も間もなく兼務。直後から新リーグの加盟条件を記者会見で説明するなど、協会の「顔」としての役割を担った。業務が本格化した同年4月以降は、テレビ出演など協会以外の仕事はほぼ退いた。
 解任は年度の変わり目でもなければ、任期切れを迎えたわけでもない。準備室長としての手腕に問題があったという声も聞こえてこず、今年6月に新リーグの具体案公表を控えているタイミングだった。

◆古豪チームの一部から反発も

 その半面、不満がくすぶっていたとの説がある。新リーグはトップリーグ16チーム、下部リーグ9チームの25チームを3部に分けて実施。谷口氏はどのチームを一部にするか決めるに当たり、スタジアムの確保やファンサービスの充実などラグビーの強さ以外の部分を重視した。古豪チームの一部はそうしたやり方に反発したという。ただ、それが問題なら審査委員長を解任されるのが筋なのに、そうはなっていない。

東京五輪・パラリンピック組織委の評議員会と理事会の合同懇談会で辞任を表明し、厳しい表情であいさつを続ける森喜朗氏=2月12日、東京都中央区で

 谷口氏が世間の注目を集めたのは、2月5日の森喜朗・東京五輪組織委員会会長(当時)による女性蔑視発言後だった。森氏は15年まで5期10年、ラグビー協会会長を務めた。いまだ強い影響力を持つ同協会を名指しして「女性がたくさん入っている理事会」「時間がかかる」とくさした。報道各社の取材に応じた谷口氏は「ラグビー界やスポーツ界も変革していく中にあって、森さんは感覚がずれていた」と批判した。
 解任はその10日ほど後。是非が議論された形跡はなく、谷口氏が会見する機会もなかった。関係者に取材すると「皆が恐れる森さんを批判し、元々谷口氏を良く思っていなかった人たちから本格的な怒りを買った」と語る人がいれば、「協会と関係が深い広告代理店の電通を新リーグ運営から外そうとしていた。電通が圧力をかけたのでは」と推測する人もいた。
 当の谷口氏は取材に「協会理事としての立場があるので、詳細は答えられない」と戸惑い気味に話した上で、「突然の解任だったので驚いた。私のやり方に批判的な人がいるのは知っているけど、時代に合ったリーグになるよう形をつくり上げてきた自負もある。関われなくなるのは残念だが、審査委員長として職責を果たしていく」と述べた。
 一方、ラグビー協会の三好美紀子広報部門長は解任の理由を「準備室長は新リーグに参加する各チームの要望を聞いて向き合う必要がある。審査委員長は振り分けに当たって機密性と公平性が求められる。兼務を解消した方がスムーズに進むと考えた」と説明する。

◆森氏に批判的な発言が逆鱗に触れた?

 ただ、それは最初から分かっていたはず。しかも新リーグ発足に向けた議論は各チームと合同の検討委員会で進めることになり、準備室は4月14日の理事会で解散が決まった。谷口氏はたった2カ月の兼務解消のために解任されたことになる。さらに谷口氏は、チームの振り分けは解任時点でヤマ場を越えており、審査委員長の職務は多忙ではなかったと明かす。
 重要な人事なのに、解任の発表は2週間以上後の3月6日だった。三好氏は「内部体制の変更なので、当初は公表する必要がないと考えていた。メディアの方々から指摘を受けて公表したため、遅れてしまった」と釈明した。
 森氏に批判的な発言が誰かの逆鱗に触れたのか、手腕が問題だったのか、外部の女性だったからなのかといった点も尋ねた。三好氏は「関係ない」と繰り返すばかり。関係者が名前を挙げた電通にも、谷口氏の手腕をどう評価しているか、準備室長を解任するよう協会関係者に圧力をかけたのかどうか聞いてみた。広報部からは「コメントする立場にありません」「そのような事実はありません」との返答があった。
 谷口氏が新リーグ準備の中心から外された真相はよく分からないままだ。ラグビージャーナリストの村上晃一氏は「谷口氏は外部の目線で改革を進めてきた。言っていることは正しくても、振り分けを巡る評価方法に批判的なチームがあった。協会やリーグはチームが支えている。新リーグに向けて全ての参加チームをまとめていく上で、協会も何かしらの人事対応をしなければいけなくなった結果なのだろう」と推測する。

◆「不可解な解任、改革に逆行」

W杯でスコットランドに勝利してベスト8進出を決め、喜ぶ日本選手=2019年10月、横浜市港北区で

 新リーグへの注目は高まっている。日本代表が15年のワールドカップ(W杯)で強豪・南アフリカに歴史的な勝利を収め、日本で初めて開催された19年のW杯では初のベスト8に進出。日本中が熱狂し、新たなファンも獲得した。せっかくのチャンスに、外部に説明がつかない人事が協会で横行するようではファンもしらけてしまう。
 スポーツ文化評論家の玉木正之氏は「谷口氏は、改革を進める協会の象徴的な存在だった。不可解な解任は、改革に後ろ向きであるように受け取られる。協会には、大学の先輩・後輩といった仲間内の関係ばかり重視する古くからの悪い体質が残っている。森氏が言うところの『わきまえない女』だから排除されたとしか思えない」とあきれた様子で解説し、こう続けた。
 「協会幹部の人事を気にする選手、ファンはほとんどいないから、すぐに何かが表面化することはない。ただ、おかしい人事が積み重なればチームのやる気を下げ、新リーグの試合の質や代表チームの成績に少しずつ悪影響が表れる。W杯の成功で選手強化が進み、新しい人材も入ってきたのに、ラグビー界の将来が心配になる」

 デスクメモ 10代の頃からラグビーが大好き。年に何試合か競技場で観戦している。一昨年のW杯、正直言えば予選プールで敗退と思っていた。全勝できたのは、選手はじめ関係者が一つになった結果だと思う。その一員である協会がぶれているのなら心もとない。「ワンチーム」はどこに行った?(千)

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