揺れる判決、解決になお時間 ソウル地裁が元慰安婦の賠償請求却下

2021年4月22日 06時00分
 元慰安婦が日本政府に賠償を求めた訴訟で、ソウル中央地裁は21日、韓国の裁判権が及ばないと判断して、原告の訴えを却下した。同じ趣旨の裁判で、同地裁が1月に日本政府に賠償を命じたのと正反対の判断だ。今回の判決は外交努力を求めているが、日本側は韓国側の対応を注視。韓国政府も具体的な動きをみせておらず、問題解決になお時間がかかる可能性がある。(上野実輝彦、ソウル・中村彰宏)

◆1月と真逆の判断

 「あまりにも荒唐無稽だ」。判決後、法廷から出てきた原告の李容洙イヨンスさん(92)は声を震わせた。原告側の驚きは大きい。国家は外国の裁判権に服さないとする国際法上の「主権免除」原則の適用を巡り、1月と真逆の判断だったからだ。
 両訴訟とも主権免除適用の判断根拠は、第2次大戦中にドイツに強制労働させられたとするイタリア人の独政府への損害賠償請求訴訟。1月は「国際犯罪には主権免除は適用されない」との2004年のイタリア最高裁判決を引用した。21日は、12年に国際司法裁判所(ICJ)が示した「ドイツの行為は国際法上の犯罪だが、主権免除は剝奪されない」との判断を踏襲。「国際慣習法と(韓国)最高裁判例から、外国の主権的行為に対する損害賠償は認められない」とした。

21日、韓国・ソウル中央地裁の判決後、報道陣に語る元慰安婦の李容洙さん

◆韓国内で政治的背景指摘の報道も

 なぜ主権免除を巡り正反対の判断が示されたのか。国際関係に詳しい韓国の弁護士は「判断が分かれる問題。韓国の国内法や国際法から見て前回の判決が異例だった」と話す。
 政治的背景を指摘する韓国内の報道もある。文在寅ムンジェイン大統領は1月の記者会見で、判決に「困惑している」とし、15年の慰安婦を巡る日韓合意を政府間の公式合意と認めた。バイデン米政権も日韓関係改善を促している。文氏は米高官に、関係改善への努力を約束した。韓国司法は世論や政権の意向に敏感ともされ、今回の判断に影響した可能性がある。
 予兆とみられる動きも。3月末に同地裁の別の裁判官が、訴訟費用確保のための日本資産差し押さえは認められないとの決定文を出した。外国公館への不可侵などを定めたウィーン条約に照らし「国際法違反を招きかねない」と判断した。

◆日本は冷ややか、不信感根深く

 ただ、元慰安婦問題が直ちに解決するわけではない。原告側は控訴の見通し。ICJ付託も求めている。
 日本政府は、相いれない主張を繰り返してきた文政権への不信感が根深い。加藤勝信官房長官は21日の記者会見で、判決を「適切だ」としたが、それ以上の評価を避けた。
 日本政府は、1月の判決は「国際法上、考えられない異常な事態」(茂木敏充外相)だとの立場。日韓外交筋は今回の判決に「マイナスの関係がこれ以上、悪化しなかったというだけだ」と冷ややかだ。外務省当局者は「関係改善に直結するとの見方は誤り。まずは韓国政府が、1月の判決に対応すべきだ」と話す。
 韓国の外交当局者は21日の判決を受け「韓国政府は被害者中心主義で、被害者の名誉と尊厳を回復するため努力をしていく」と従来の立場を繰り返した。
 ソウル大日本研究所の南基正ナムキジョン教授は「最終的な判断が出るまで時間がかかる。両政府が外交で解決するしかない。日本も国際法違反だと突っぱねるばかりでなく、積極的に対話すべきだ」と話す。

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