<炎上考>物議を醸した報ステCM、「何が問題なのか分からない」という人も多かった理由 吉良智子

2021年4月22日 18時00分

動画の最後、女性の顔にテロップがかかる(イラスト・川端乙大)

 テレビ朝日のニュース番組「報道ステーション」の新PR動画が先月、物議を醸した。内容に強烈な違和感を覚える人がいる一方で、「何が問題なのか分からない」と言う人も多かった。理由を考えてみたい。
 特に問題視されたのは、会社勤めという設定の若い女性が放つセリフ。「会社の先輩/産休あけて赤ちゃん連れてきてたんだけど/もうすっごいかわいくって/どっかの政治家が『ジェンダー平等』とかって/スローガン的にかかげてる時点で/何それ/時代遅れって感じ」。続けて高価な化粧水を買ったとか、消費税が高い、などと興奮気味に笑顔でまくしたて、最後に「9時54分!」と叫ぶ。
 美容に余念がない、脈絡なくしゃべる、「すっごい」を連発する…。「若い女の子ってこんなもんだよね」と思う人には、何が問題か分からないだろう。だが、当事者の女性からすると、陳腐なステレオタイプにみえる。
 現実社会はもっと複雑だ。正規/非正規/派遣など雇用形態によって女性は分断されている。この動画では、「産休あけ」の先輩が社内にいることが「ジェンダー平等」の象徴として描かれるが、正規雇用ではない女性たちは産休育休を当たり前に取れる状況にはない。たとえ育休が取れても都市部で保育園に入れるのは至難の業だ。女性の働く環境を不安定にさせるハードルは尽きない。そのハードルを気にする必要がないこと自体、男性の「特権」といえる。しかもそれを当事者である若い女性に言わせるのは、二重に卑怯だ。
 動画の最後に、「こいつ報ステみてるな」というテロップが流れる。相手を下に見る「こいつ」という呼称。しかもその文字は、女性の顔にかぶせられる。「面子めんつをつぶす」「顔に泥を塗る」という言葉もあるが、制作者が若い女性を嘲笑しているかのようだ。
 この動画は数日後、「議論を超えて実践していく時代にある」という意図だった、との釈明とともに取り下げられた。不快に感じた視聴者の問題であるかのように話をすり替えていた。
 議論を踏まえた理論と実践はフェミニズムがずっと行ってきた。女性の労働環境改善を求めてきた先人らもいる。動画の作り手は、長きにわたって戦ってきた女性たちの活動をも侮辱したといえよう。

 きら・ともこ 美術史・ジェンダー史研究者

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