今も残る除染の影、タマネギに託す希望 福島・浪江で稲作農家が転作

2021年4月22日 12時00分
 東京電力福島第一原発事故による放射能汚染の被害を受けた福島県浪江町で、全国的なコメの需要低下に直面する稲作農家らが、タマネギの栽培に挑戦している。一帯の田畑は栄養豊富な表土が除染で取り除かれ、土作りから始めなければならない。それでも、試行錯誤を繰り返し、産地化へ前向きな兆しも見えつつある。(福岡範行、写真も)

種をまく機械を見学する農家ら=福島県浪江町で

◆種まき機械の実演会に人だかり

 3月下旬、浪江町立野の畑に、50人近い人だかりが見えた。タマネギの種を直接、畑にまく機械の実演会だ。周囲に除染した土の仮置き場の跡地があった。大量の汚染土は福島第一原発近くの中間貯蔵施設に運ばれた。「(汚染土は)どんどん運ばれる。畑は増える」。司会をした福島県双葉農業普及所の担当者が拡声器を手に力を込めた。
 実演会を開いた畑の土は、足が沈むほどふかふかだった。浪江町タマネギ生産組合の代表松本善郎さん(63)は「機械が入るには軟らかすぎる。田んぼだったから、まだ水分が多い」と硬い表情で話す。

◆土作りの手間、見通せぬ黒字化…課題は多く

 松本さんがタマネギ栽培を始めたのは、2016年9月。復興にあたり、福島県は稲作農家により収益力の高い野菜などへの転作を促している。人口減少や食生活の変化でコメの需要が下がっているためだ。

機械でまかれた種の様子を確認する農家ら=福島県浪江町で

 転作に適した土作りには何年もかかる。田畑には除染で表土をはがした後、養分の少ない山の土が入れられた。松本さんは1ヘクタールに40トンの堆肥を入れた。通常の2倍以上の量という。
 浪江町タマネギ生産組合の出荷先は安価な業務用が中心だ。苦労の割に利益は上がらず、「もう、やめっかなあ」ともらす農家もいるという。いつ黒字転換できるか見通せないだけに、松本さんも「『もう少し頑張ろう』とは言いづらい」と打ち明ける。

◆温暖な気候に地元品種の開発…希望も

 そんな逆境の中でも、松本さんは将来性を感じている。県内にタマネギの産地はなかったが、海に近い浪江町周辺の温暖な気候が栽培に適していることや、国産の出荷が少ない7月に出荷できることが判明。甘みが自慢の地元品種「浜のかがやき」も開発された。

2020年に収穫されたタマネギ(JA福島さくら提供)

 松本さんのタマネギは小ぶりだったが、市場で評価されやすい「L」の大きさが増えた。JA福島さくらは今年、余分な皮を取り除く磨き機を選果場に導入。スーパーにも出荷できる体制が整いつつある。
 避難の長期化で、生産組合の農家11人の多くは農地から離れた場所に住む。松本さんの自宅は壁にひびが入り、屋根が落ちて修理できないまま、6年前に解体した。新たな家は避難先の南相馬市に建てた。
 そのため、1日に3~4度の水やりが必要という苗作りなど、畑での手間の多い作業は難しい。今年は畑に直接種をまく栽培法に本格的に挑む。農薬の登録変更で、栽培法に合わせた除草剤を使えるようになったことが追い風だ。
 松本さんは「今は正念場。うまく芽が出てくれるかどうか、不安の方が大きいが、少しでも前に進むことができれば、楽しみは増える」と語る。

PR情報