<お道具箱 万華鏡>福島・田植踊の花笠 被災者の熱意で復活

2021年4月23日 07時32分

2017年8月、更地状態の苕野神社で奉納された田植踊=佐々木繁子さん提供

 道具がなくては芸能は始まらない。改めて、そう感じる道具に出合った。それは、色鮮やかな花笠(はながさ)。福島県の浪江町に伝わる「請戸(うけど)の田植踊(たうえおどり)」の早乙女を象徴する道具だ。
 話は二〇一一年に遡(さかのぼ)る。三月十一日。海に面した浪江町は、震度6強の揺れと十五メートルを超える津波に襲われた。日常の暮らし、そして芸能の道具も、海が持っていってしまった。加えて、原発事故の影響も大きくのしかかった。
 「田植踊」は地元の苕野(くさの)神社の祭礼で、毎年二月に奉納されてきた。しかし、急に避難生活が始まり、皆がバラバラに。だれもが芸能どころではなかった。
 だが、田植踊は同年八月に見事に復活した。津波被害を受けた地域の芸能では、最も早かったという。それができたのは、逡巡(しゅんじゅん)しながらもすぐに走りだした人がいたから。現在、請戸芸能保存会会長を務める佐々木繁子さん(70)だ。
 震災後、佐々木さんは東京都江東区に避難していた。「もう、あの土地に戻れないかもしれないけど、芸能は残そう」。そう心に決め、まず始めたのが花笠作りだった。

田植踊で、踊り子の早乙女がかぶる花笠。花は紙で作られている

 円錐形(えんすいけい)の笠の骨組みは竹で作られる。竹は素人には扱いが難しい素材だが、福島の民俗芸能の研究者が苦心して作ってくれた。「花は、東京に避難していた人と一緒に手作りしました」
 佐々木さんの熱意はほかにも多くの協力者を呼び寄せ、衣装や下駄(げた)、楽器もそろっていった。下駄は、浅草の履物店の辻屋本店が「被災地に支援がしたかった」と一式、進呈してくれた。専用倉庫がないため、これらの道具は全て佐々木さんが自宅で保管している。
 コロナ禍にもへこたれず、踊りは今も続く。YouTubeチャンネル「請戸芸能保存会」をご覧ください。花笠が楽しそうに跳ねています。
 (伝統芸能の道具ラボ主宰・田村民子)

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