無人駅での介助、車椅子ユーザーの訴えに非難 視覚障害のある田中弁護士の見解は

2021年4月23日 07時29分

<自由に動きたい 生きやすさを考える>(上)人権の観点から

 電動車椅子を使うコラムニスト伊是名(いぜな)夏子さん(38)=本紙コラム「障害者は四つ葉のクローバー」連載中=が、JR東日本の無人駅での移動介助を頼んだところ、駅員から「案内できない」と対応されたことを問題視したブログなどでの発信に、非難の声が相次いだ。伊是名さんの訴えとJR側の対応から学ぶべきことは何か。自身も視覚障害がある弁護士の田中伸明さん(53)に聞いた。 (小林由比)

◆マナーやコストより人権の問題 多様な利用者がいる前提で制度作りを

 −今回のことをどう受け止めたか。
 率直に、まだこういうことが起こるんだと感じた。車椅子ユーザーが行きたい所へ自由に行けない。伊是名さんは気持ちを奮い立たせ、悲しい気持ち半分、何とかしたいという気持ち半分で交渉したと思う。
 −JRの対応は。
 考え方のスタートは「利用者の中には車椅子の人もいる」と想定すること。無人駅にするのは経営判断だが、その場合、その駅を車椅子の人が使う可能性を考えておくべきだ。障害者差別解消法が定める合理的配慮にあたり、企業には努力義務がある。
 エレベーターの設置以外にもできることはある。熱海駅から四人の駅員が介助することも一つかもしれないが、JRが事前にタクシー会社と提携し、代替輸送する仕組みをつくっておくことも考えられる。
 −「事前に連絡しないのが悪い」「駅員の負担が過重だ」という非難も出た。
 車椅子の人のスムーズな乗降や、駅員の過重負担にならない方法を事前にどれだけ検討したかが問われる。例えば当日の手配にも対応できるタクシー会社に頼めれば、事前連絡の必要はなく、駅員が往復する負担もなくせる。
 私たち障害者はマイノリティーの立場から気づいたことを意見する。少数の意見にも耳を傾け「そういう問題があるのか」と一緒に考えてほしい。伊是名さんも指摘しているが、車椅子にスポットが当たることで、高齢者やベビーカーでの移動のしやすさなど、社会全体をよくすることにもつながっていく。
 −伊是名さんは人権の視点を強調している。
 「移動の自由」は人権の問題だ。「来宮(きのみや)駅まで行きたい」と言ったとき、「熱海までしか案内できない」という対応には、「なぜ行けないの」という思いが当然出てくる。マナーやコストの問題というより、人権の問題と捉えてほしい。私たちにとって「こういう人も来る」と想定し、対応してくれるのはありがたい。いろんな人がいるとの前提で制度を作ってほしい。駅や電車といった公共性が高い場所であればあるほど、その必要性は高くなる。

◆JR「可能な範囲で対応した」

 伊是名さんによると、今月一日の家族旅行で、最初の乗り換えの小田原駅に到着。無人で階段しかない来宮駅を行き先に告げて介助を頼んだ。「案内できない」とする駅員と約一時間交渉したが、対応が変わらないため一駅手前の熱海駅へ向かった。そこから駅員四人が来宮駅まで同行し、重さ約八十キロの車椅子を持ち上げて運んだ。伊是名さんは「車椅子ユーザーの利用が想定されていない」と訴えている。
 JR東日本横浜支社広報室は、要望を聞き、タクシーや駅員の手配をしたことから「可能な範囲で対応した」と回答。要介助の乗客が無人駅を使う際「乗車拒否をすることはない」とするが、「説明不明瞭で誤解を招いたのなら、おわびする」とした。「無人駅の利用も事前予約は不要。ただスムーズな利用のため調整が必要で、事前連絡をお願いしている」と話す。
<たなか・のぶあき> 1967年、香川県出身。日本弁護士連合会人権擁護委員会障害者差別禁止法制に関する特別部会委員。名古屋市視覚障害者協会会長。愛知県弁護士会所属。
 ◇ 
 二十九日掲載の(下)は「合理的配慮」について考えます。

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