東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > Chunichi/Tokyo Bookweb > 東京エンタメ堂書店 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【東京エンタメ堂書店】

<小林深雪の10代に贈る本>今年の新作 リアルタイムな一冊を

 名作や定番の本もいいけれど、最近発売されたばかりの本や新人作家の本も読みたい。リアルタイムで、あなたの悩みや気持ちに答えてくれる本との出会いがあるかも。今年発売の講談社児童文学新人賞、佳作の作品をご紹介します。

◆一首の短歌が

写真

<1>こまつあやこ『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』(1296円)

 魔法の呪文のような不思議なタイトルはマレー語で五七五七七という意味です。

 中2の沙弥はマレーシアからの帰国子女。図書委員に呼び出され、なぜか吟行(ぎんこう)(歌を詠むお出かけ)に行くことに。

 ここで、沙弥が一首。「無理やりに連れられてきた吟行は早く帰ろうジュンパラギ!」。ジュンパラギはマレー語でバイバイのこと。こんなふうに作中で、中学生たちが詠む短歌が自由でとても楽しいのです。

 「君が断つトンカツしゃぶしゃぶ生姜(しょうが)焼き わたしも一緒にさよならするよ」。これは、好きな男の子の親がマレーシア人と再婚しイスラム教に改宗するから豚肉が食べられなくなる。それなら自分もガマン!という愛の歌なんです。

 そう。短歌は言葉にならない気持ちを形にしてくれる魔法なんだと気がつく沙弥。

 読み終わった後、自分も短歌を詠んでみたくなりますよ。

◆一枚の絵が

写真

<2>谷口雅美『大坂オナラ草子』(1404円)

 主人公は、似顔絵の得意な小5の平太。でも、そのことで同級生を傷つけてしまい、好きな絵を封印しています。

 ところが、ある日、おじいちゃんの納戸で古い冊子を眺めているうちに江戸時代にタイムスリップ。そこで出会った女の子、お篤ちゃんをたすけるために、泥棒の人相書きを描くことに……。

 学校では学級新聞、江戸時代ではかわら版の絵師として大活躍。過去と未来を考え取材し、それを自分の手で発信していく。新聞作りの楽しさが平太と一緒に味わえます。

◆背中を押してくれる

写真

<3>黒川裕子『奏(かなで)のフォルテ』(1296円)

 中2男子の奏は世界で通用するホルンのソリストになるのが夢。ニューヨークのジュリアード音楽学院プレカレッジを受験するが、不合格に。

 奏は、ホルンの神様アブドにもう一度、自分の音楽を聴かせたいとホテルのロビージャックを計画します。

 オーボエは金髪美少年ルー、バスクラリネットは幼なじみのシューコ、フルートは反目しあう黒沢。

 今まで自分のことだけで精いっぱいだった奏は、4人で心を合わせて演奏した時に音楽の本当の喜びを知ることになります。それは、仲間と溶けあい、音楽そのものになること。

 大きな目標に向かって行って壁にぶつかった時、自分は無理だと諦めそうになった時、背中を押してくれる一冊です。

◆ある一曲が

写真

<4>大島恵真(えま)『107小節目から』(1404円)

 小6の由羽来(ゆうら)の父はすぐ怒る。母ともケンカが絶えず、暴力を振るう。毎日が水の中にいるみたいに息苦しい。

 仲間ハズレになっている水泳教室で、由羽来は頭の中で音楽を流しながら泳ぐ。ドボルザークの交響曲「新世界より」。そして、第2楽章には不思議な休符があることに気が付く。メロディーが一瞬、ふっと消える。それはなぜ?

 それは、新しい世界が始まる前の静寂。すべてをからっぽにして、生まれ変わるため。

 そう、新世界へは自分で飛ぶ。

 音楽も本も、人は、なくても生きていけます。けれど、それらは見えない力で確実に人を支えてくれる。一首の短歌が、一枚の絵が、ある一曲が、一冊の本が、誰かの人生を変えることが、きっとある。

 10代のあなたの味方になってくれる4冊です。ぜひ!

<こばやし・みゆき> 児童文学作家。『七つのおまじない』(講談社青い鳥文庫)発売中。

 

この記事を印刷する

PR情報