東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > Chunichi/Tokyo Bookweb > 東京エンタメ堂書店 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【東京エンタメ堂書店】

はかなく 悲しく 美しい 三秋縋(みあきすがる)の世界へ

 三秋縋という作家をご存じだろうか。今注目の若手作家で、10代の学生を中心に絶大な人気を誇る。これからの季節、はかなくて、悲しく、美しい三秋縋の世界を堪能してほしい。 (運動部長・谷野哲郎)

 あなたに会えて本当にうれしいのに、当たり前のようにそれら全てが悲しい。三秋の文章を読むと、そんな風(ふう)に、幸せと不幸せがないまぜになったような気持ちになる。彼が描くのは、劣等感に苛(さいな)まれながら生きようとする男女の苦悩と未来。独特の世界観が読者に支持されている。

写真

 例えば、新進気鋭のイラストレーター・loundraw(ラウンドロー)と組んだ<1>『あおぞらとくもりぞら』(KADOKAWA、既刊第二巻まで、各六八〇円)は三秋が原作のヒット漫画。他者の体を操って自殺させる「掃除人」の青年とその標的になった少女を描くweb発コミックは二百二十万PV(閲覧)を記録し、書籍化された。

写真

 小説でも<2>『君の話』(早川書房、一四九〇円)は発売初日に初版が完売し、話題を呼んだ。記憶の消去や改変が可能になった近未来。両親に愛されず、友人もいない天谷千尋(あまがいちひろ)は二十歳の誕生日に記憶を消そうと試みる。しかし、手違いから、過去が消えないばかりか、逆に夏凪灯花(なつなぎとうか)という幼なじみの記憶を付け加えられてしまう。優しい思い出に困惑する千尋。しかも、実在しないはずの彼女が目の前に現れて…。偽りの記憶である「義憶」が、もうひとつの真実を照らし出す。

 人は自分が見たいと思うものしか見ない。「私は味方」という灯花を千尋は自分をだます詐欺師として憎み続ける。あるとき、千尋は言う。「僕は嘘(うそ)が嫌いなんだ」。すると、灯花は「私は嘘が好きだよ」と返す。やがて明かされる悲しい真実と、それを知った千尋の行動がいとおしい。

 三秋の作品に共通するのは「欠けている」ことへの許容と愛情だ。どれもコンプレックスや後悔、自己否定に苦悩する主人公が最後に自分なりの結末を選びとる。それがハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか。判断が読者に委ねられるのも特徴になっている。

 一九九〇年、岩手県生まれの三秋はインターネット発の作家。「げんふうけい」の名義でweb上に小説を発表して活動を広めた。中高生に親しまれ、三秋の本は今、お薦めの書籍を互いに紹介し合う「ビブリオバトル」で定番になりつつある。

写真

 <3>『三日間の幸福』(メディアワークス文庫、六一六円)は、貯金も定職もなく、将来を悲観したクスノキが寿命を換金できる不思議な店を見つけ、大半を売り飛ばしてしまう話。残る三カ月の人生で幸せの意味を探す。

写真

 <4>『恋する寄生虫』(メディアワークス文庫、六八〇円)。極度の潔癖性に悩む高坂賢吾と不登校の女子高生・佐薙ひじりは、社会復帰に向けたリハビリを行ううちに惹(ひ)かれ合う。しかし、この恋は何者かに操られた恋だった。

 『君の話』はフィリップ・K・ディックや村上春樹に触発されたという。しかし、彼が最も影響を受けたのは、シンガー・ソングライターの米津玄師(よねづけんし)ではないか。希望と絶望が固く手をつなぐ世界は米津の音楽と波長が重なる。特に「アイネクライネ」や「Flowerwall」が好きな人なら、きっと三秋の作品が気に入ることだろう。

 

この記事を印刷する

PR情報