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【東京エンタメ堂書店】

<江上剛のこの本良かった!>「スティーヴン・キング」 原作に震える

 私のスティーヴン・キング体験の最初は映画。彼の作品を原作にした映画はかなり見ている。どれも面白いが、やはり最高はスタンリー・キューブリックが監督した『シャイニング』だ。ジャック・ニコルソンの目を剥(む)いたあの顔が今も目に焼き付いている。本当に怖いけど、キングは不満だったらしい。ということで原作を読んでみよう。

◆突き刺さる孤独

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 <1>深町眞理子訳『シャイニング』(文春文庫、(上)(下)各九九四円)

 主人公トランスは、売れない作家。アルコール依存症に悩まされ、禁酒している。妻ウェンディは離婚を考えているが、息子ダニーのためにやり直せないか悩んでいる。ダニーは五歳だが、強力なシャイニング(かがやき)能力を持ち、両親の心の中を読めるため、二人が仲違(なかたが)いしていることを悲しんでいる。黒人コックのハローラン。米コロラドにあるオーバールックホテル(景観荘)に勤務し、ダニーのシャイニングの強さに驚き、ホテルに異変が起きないか心配する。

 主な登場人物はこの四人だが、物語の主人公はホテルに取り憑(つ)いている悪霊たちだ。

 トランスはホテルの管理人となり、一家はそこでひと冬を過ごすことになるが、数々の怪異が襲い掛かる。ホテルの悪霊が一家を恐怖に陥れるのだ。悪霊は、より強くなるためダニーのかがやきをわがものにしようと、孤独にさいなまれたトランスに取り憑き徐々に狂わせていく。

 何が怖いかって、この過程が怖い。トランスの良心と悪霊に支配されていく心の葛藤が極めてリアルなのだ。人間の孤独の痛さが読者にビンビン刺さってくる。ところで小説と映画を比較したら断然小説が怖い。キングは映画に不満だったのも分かる気がした。

◆息つけぬ怖さ

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 <2>白石朗訳『ドクター・スリープ』(文春文庫、(上)一一三四円、(下)一一六六円)

 『シャイニング』の続編。キングは、これこそトランス一家の正史だというが、誰もが、凄(すご)いシャイニングを持ったダニーのその後を知りたいだろう。実は、ダニー(名前はダンに変えている)はシャイニングを持て余し、父親と同じアルコール依存症になり、放浪生活をしていた。彼は介護施設で働き、シャイニングの力で死にゆく人の心に安らぎを与え、ドクター・スリープと呼ばれていた。

 彼の前に、生き血を吸うことで永遠の命を得る吸血鬼のような「真結族」が現れる。かがやきを持つ子供を殺して、そのかがやきを貪(むさぼ)る彼らが狙うのは、ダンよりもっと強いかがやきを持つアブラ。運命は二人を真結族との生死を懸けた戦いに導いていく。息もつかせぬハラハラドキドキで、ページを繰る手が止まらなくなる。

◆不気味さに寒気

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 <3>白石朗訳『ミスター・メルセデス』(文芸春秋、(上)(下)各一九九八円、文春文庫は九日発売予定)

 これは最高に怖い。明日、自分の身に起きるかもしれないという現代的な恐怖を覚える作品だ。主人公はホッジズという退職警官。特にかがやきなどの特殊な能力を持っている人物ではない。ただ刑事の勘は優れている。

 ある日、市民センターの就職支援フェアの開場を待つ行列にメルセデスベンツが故意に突っ込み、八人の死者や多くの重傷者を出す。ホッジズはこの事件を解決できないまま退職。暇を持て余し、鬱々(うつうつ)とした日々を過ごしていた。

 そこへ、ミスター・メルセデスから手紙が来る。人々の行列にベンツで突っ込み、大量殺人を犯した人物だ。逮捕してみろと言わんばかりの、傲慢(ごうまん)でからかいに満ちた挑戦状だった。ホッジズは、現役時代唯一の未解決事件の犯人からの挑戦に奮い立つ。

 犯人は再び大量殺人、それもテロと言うべき事件を企てようとしていた。じわじわとホッジズたちを追い詰めていくのを読んでいると非常に不気味で、足元から寒気がじわじわと立ち上がってくる。

 今、私は『ミスター・メルセデス』三部作の完結編である白石朗訳『任務の終わり』を読んでいる。この感想はまた後日に譲るが、恐怖が一段とパワーアップしていることだけは教えておこう。 (えがみ・ごう=作家)

  *二カ月に一回掲載。

 

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