東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > Chunichi/Tokyo Bookweb > 東京エンタメ堂書店 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【東京エンタメ堂書店】

「王城夕紀」 ゆるやかな絆

 来年は元号が変わる。振り返ると、平成という時代は、人と人とのつながりが改めて意味を問われたように思う。平成最後の師走には、人々の絆を描く王城夕紀(おうじょうゆうき)の3冊を読んでもらいたい。(運動部長・谷野哲郎)

◆格好いい家族

写真

 熱くて清々(すがすが)しいデビュー作から紹介しよう。<1>『天盆(てんぼん)』(中公文庫、六四八円)は、将棋に似た架空のゲームを題材にした歴史ファンタジー。主人公はわずか十歳の男の子だ。

 中国の春秋時代を思わせる蓋(がい)という小国が舞台。ここでは「天盆」なる盤戯(ばんぎ)が盛んで、庶民の賭け天盆から、国を挙げた公式戦まで催されている。そんな蓋で貧しい食堂を営む少勇(しょうゆう)はある日、赤子を拾う。凡天(ぼんてん)と名付けられた男児はやがて、天盆で並外れた才能を発揮していく。

 将、獅子、麒麟(きりん)、卜者(ぼくしゃ)、弓といった未知の駒を使うゲームも将棋のイメージに変換できるから面白い。凡天は出自の差別や権力に阻まれながらも、真っすぐな心で最高峰の戦い・天盆陣へ勝ち進む。兄姉との研さん、謎の老師との出会いで強くなる筋書きは、少年漫画のようで痛快。

 忘れてならないのは、本書が家族の物語だということだ。凡天には兄姉が十二人いるが、全て血はつながっていない。両親が戦災孤児を引き取ったからなのだが、彼らがとにかく格好いい。勝敗の意味、生きる理由を教えられた。

◆解が見つかる

写真

 王城の作品で最も有名なのは<2>『青の数学』(新潮文庫、六三七円)だろう。数学に情熱を傾ける高校生たちの物語は、二〇一八年「新潮文庫の一〇〇冊」に選ばれた。「数学って、何?」の問い掛けに、高校一年生の栢山(かやま)が答えを見つけようとする。

 オイラーの等式、ラマヌジャン数…。聞き慣れない用語が出てくるが、本筋ではないので楽に読める。若き数学者たちがネットにログインして一対一で問題を解き合う姿は、スポーツを見ているかのよう。友人やライバルとどう向き合うべきか。読めば解が見つかるはず。二巻まで発売中。すぐにでも続編が読みたい。

◆繰り返す別れ

写真

 一九七八年、神奈川県生まれの王城はジャンルを問わない作家でSFも書いている。<3>『マレ・サカチのたったひとつの贈物(おくりもの)』(中公文庫、六九一円)は「量子病」を患った坂知稀(さかちまれ)が世界を跳び続ける話。突飛(とっぴ)な設定も王城の手にかかれば、名作に変わる。

 量子病とは、自分の意志と関係なく、あらゆる場所にワープしてしまう奇病のこと。深い森や駅、紛争地帯、岬に廃虚の美術館−。稀は跳び、出会い、別れを繰り返す。

 世界は二度の「ワールドダウン」と呼ばれる同時経済破綻で大混乱を来し、テロが頻発する。稀はネットを巧妙に操り、唆し、世界を支配しようとする陰謀に気付く。フェイクニュースがはびこる現代。この小説が予言書のような気がして寒けがした。

 実はこの三冊には共通項がある。絆だ。人と人との断ち切りがたいつながりを意味する言葉は、元々は馬などをつなぐ綱のことを指す。だからだろうか。ことさら絆を強調され、縛り合うのは息が詰まる。しかし、王城は付かず離れず、絶妙な距離感で人の間を描く。そこがいい。

 『天盆』では母の静(せい)が子に問うシーンがある。「お金のために一緒にいるの? 好きな時だけ一緒にいるの? 得だから一緒にいるの? 違うでしょう」。家族や友人、世界の人々と、どうつながればいいのか。王城は物語にして教える。時代の節目に読むべき作家だと思う。

 

この記事を印刷する

PR情報