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【東京エンタメ堂書店】

<扉のむこうへ>驚きもたらすアイデア

◆「時を戻し」謎を解く

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 大山誠一郎(おおやませいいちろう)の<1>『アリバイ崩し承ります』(実業之日本社・1620円)は、その名の通り、アリバイ崩しをテーマにした連作である。

 時計の電池の切れた新米刑事の「僕」がふと街の時計店に駆け込むと、そこには「時計修理承ります」のほかに「アリバイ崩し承ります」の貼り紙がある。若き女性店主によると先代の店主の方針から時計にまつわるものは何でも受けているという。店主の美谷時乃は20代だが、先代の祖父に小学3年の時から仕込まれて14年のキャリアをもっていた。

 刑事なので本当は守秘義務があるのだが、アリバイがネックになっている事件を「僕」が時乃に依頼すると、たちまち「時を戻すことができました。アリバイは、崩れました」の決め台詞(ぜりふ)とともにきれいに謎が解かれる。

 ストーカーと化した元夫のアリバイ、死体よりも先に見つかった凶器の拳銃をめぐるアリバイ、犯罪を告白して亡くなった死者のアリバイ、さらには夢遊病者の嫌疑を払うために「アリバイ探し」まで行うから愉(たの)しい。小説としての面白みに欠けるのが難だが、直球から変化球までのアリバイ崩しのアイデアには感心する。

◆語り緻密、結末鮮やか

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 アイデアに感心するといえば、江戸川乱歩作品を題材にした三津田信三(みつだしんぞう)の<2>『犯罪乱歩幻想』(KADOKAWA・1728円)もそうだろう。

 ここには「退屈病」に侵された青年が部屋の異変を探る「屋根裏の同居者」、G坂に住む素人作家の「私」が目の前の家で起きた殺人事件を追及する「G坂の殺人事件」、精神分析医が夢遊病者の過去を検証する「夢遊病者の手」、鏡の中の虚像をめぐる「魔鏡と旅する男」など乱歩関係の短編5作のほかに円谷プロ作品へのトリビュート「影が来る」など2編が収録されている。

 注目すべきはやはり乱歩関連の作品だろう。乱歩作品に関する蘊蓄(うんちく)をたっぷりいれながら、十分にひねりを加えて、驚きの結末を提示するのである。とくに見事なのが「G坂−」と「夢遊病者の手」で、前者も後者も語りが緻密で、最後のどんでん返しも鮮やか。江戸川乱歩との関係を論じながら三津田作品の複雑な作りを丁寧に解きほぐす解説(谷口基)も必読だ。

 (池上冬樹=文芸評論家)

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 この欄では、各界の読書の達人がさまざまなジャンルのお薦め本を紹介します。

 

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