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【東京エンタメ堂書店】

<扉のむこうへ>熟慮すべきメッセージ

◆仕事に目覚めていく

 女性を主人公にした、お仕事小説。泉ゆたかの2作目の長編<1>『髪結(かみゆい)百花』(KADOKAWA・1728円)は、デビュー作『お師匠さま、整いました!』と、同じ題材を扱っている。しかし内容は、まったく違う。前作が軽いタッチだったのに対し、本書は確かな筆致で物語がつづられているのだ。これほどガッチリした作品が出てくるとは思わなかったので、かなり驚いた。

 ヒロインの梅は、「出戻り」である。金貸しの家の息子で、骨董(こっとう)商の龍之助に見初められて夫婦になった。だが、龍之助が吉原の遊女にほれてしまい、離縁される。龍之助は遊女と一緒になった。実家の長屋に戻った梅は、髪結いをしている母親のアサを手伝っている。そしてアサが中風で倒れると、仕事を引き継ぎ、吉原の「大文字屋」に出入りするようになる。

 吉原の仕事にとまどっていた梅が、遊女のきつい言葉をきっかけに、意識を変えていく。格式の高い花魁(おいらん)の紀ノ川とも、互いを理解するようになる。仕事の面白さに目覚めていく梅の姿が、気持ちのいい読みどころになっている。

 さらにストーリーが進むと、紀ノ川や龍之助もクローズアップされ、人間の生き方が多角的に表現されるのだ。2作目の長編で、ここまでの力量を示した作者を、絶賛せずにはいられない。

◆難局にも理想を掲げ

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 もはやベテランといっていい平谷美樹(ひらやよしき)の<2>『柳は萌(も)ゆる』(実業之日本社・2106円)も、作者の力量を感じる。主人公は幕末の盛岡藩の、若き加判役(家老)の楢山佐渡。実在人物である。

 一揆やお家騒動により、いつまでたっても落ち着かない盛岡藩。その渦中で成長した佐渡は、万民の思いが反映される世をつくるという、高き理想を抱く。しかしペリー来航により、時代は幕末から維新へと向かう。奥羽越列藩同盟に加わりながら、盛岡藩の未来を模索する佐渡は、苦しい選択を迫られるのだった。

 どれほど困難な状況になっても、人は理想を掲げることができる。作者は楢山佐渡の人生を通じて、そのことを訴えた。史実なのでしかたがないが、終盤の展開は切ない。だが、だからこそ佐渡の理想が輝く。主人公の雄々しきドラマには、現代の日本人が熟慮すべき、重いメッセージが込められているのである。

 (細谷正充=文芸評論家)

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 この欄では、各界の読書の達人がさまざまなジャンルのお薦め本を紹介します。

 

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