東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > Chunichi/Tokyo Bookweb > 東京エンタメ堂書店 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【東京エンタメ堂書店】

<江上剛のこの本良かった!>栄光と転落 魅力放つ3人の人生

 人生は、いつも輝いてばかりではない。上り坂もあれば下り坂もある。一気に崖下に墜落ということもある。3人の人生を描いた作品を紹介したい。どの人物も一世を風靡(ふうび)したが、最後まで栄光に包まれたとは言い難い。だからこそ魅力がある。陰影のない人生は面白くない。

◆「影の総理」と呼ばれた男−野中広務 権力闘争の論理

写真

 <1>菊池正史著『「影の総理」と呼ばれた男−野中広務 権力闘争の論理』(講談社現代新書、九五〇円)

 野中は「政界の狙撃手」との異名とともに政敵に恐れられた政治家だった。風貌からも決して優しい印象を受けなかったが、戦争に反対するハト派だった。

 歩兵だった野中は敗戦直後、高知県桂浜で自決寸前のところを駆け付けた上官に「生きてこの国のために働け」と殴られ、自決を止められる。それ以来「あの戦争に生き残り、生かされた私の使命は二度と戦争を起こさせないことだ」を信念に政治活動に従事する。京都府会議員として蜷川革新府政と戦い、倒し、副知事となった後、五十七歳で衆議院議員として中央政界デビュー。田中角栄から竹下登への世代交代の流れの中で瞬く間に頭角を現す。

 筆者は野中の政治的本質は「調整」だと言う。なぜ「調整」が必要なのか。「エリートは間違う」からだ。エリートに政治を任せたら、「戦争」というとんでもない不幸に国民を陥れる。暴走を許さないのが「調整」なのだ。野中は小渕、森政権で「影の総理」と言われるまで権力を握ったが、「調整」を嫌う小泉政権で追い詰められ、守旧派の代表とされてしまい、失意のうちに中央政界を去る。

 今、国会は統計不正問題で紛糾しているが、森友・加計学園問題など官の不正やデータ隠しが最近目を覆うばかりに頻発するのは、野党が弱く、「調整」の必要がない一強政権の傲慢(ごうまん)さが原因だろうか。泉下の野中は「エリートは間違う」と嘆いていることだろう。

◆江副浩正

写真

 <2>馬場マコト、土屋洋著『江副浩正』(日経BP社、二三七六円)

 江副浩正はリクルート事件で犯罪者となり、失脚した経営者。本書は、江副に薫陶を受けた二人がその実像に迫った。私は江副の回想録『かもめが翔(と)んだ日』(朝日新聞出版)を読み、衝撃を受けた記憶がある。本書で江副が東京駅で転倒して亡くなったと知り、新たな衝撃を受けた。

 江副は東大の大学新聞の広告事業から、次々とアイデアを繰り出し、リクルートを造り上げた。いったいどこで間違ったのか。父から譲渡された株の魅力に取りつかれ、投資にのめり込み、バブルで不動産の値上がりを実感したため不動産にのめり込んだ。「新聞は下から読め」という先輩の教えを忠実に守り、採用、住宅など情報ビジネスを次々と成功させていく。小柄な体に闘志をみなぎらせて既存の大企業に挑戦していく姿は多くの若者を惹(ひ)きつけた。ところが成功に酔い痴(し)れ、いつしか傲慢になり、著者の言う「第二の江副」が顔を出すようになった。

 そしてリクルートコスモス株を気前よく政財官界にばらまくリクルート事件で足をすくわれてしまう。江副のような特異な人材を「出る杭(くい)として打つ」日本の風土は、いまだ強固に存在している。江副の功罪の功の部分に陽(ひ)を当てることで日本企業にベンチャー精神が戻ることを期待したい。

◆セゾン 堤清二が見た未来

写真

 <3>鈴木哲也著『セゾン 堤清二が見た未来』(日経BP社、一九四四円)

 堤清二も失意のうちに亡くなった経営者だ。無印良品、ファミリーマート、パルコ、西武百貨店、ロフト、吉野家、クレディセゾン、J−WAVEなど現在も活躍中の企業を生み出したのが堤だ。東大卒業後、父から西武百貨店を任され経営者としてのスタートを切り、一時期は売上高四兆円にも達する一大流通グループを築き上げる。

 堤の特徴は、その思想性にある。辻井喬という作家の顔を持ち、経営にもいかんなくその特質を発揮。「商品ではなくライフスタイルを売る」「モノ消費ではなくコト消費」など、現在でも最先端の消費思想をいち早く打ち出した。しかしバブル全盛期にホテルや不動産事業にのめり込んだツケは大きく、セゾングループは解体されてしまう。時代の最先端を走り続けたが、小売業としての地道な経営を忘れてしまったことが躓(つまず)きの原因なのだろうか。

 吉野家の安部修仁(しゅうじ)(元社長)は、堤には「周りを忖度(そんたく)させるDNA」があったと言う。いつの間にか裸の王様になっていたのだ。しかし著者は、失敗を受け止めつつも「真の豊かさとはなんですか」という堤が遺(のこ)したメッセージを、いま一度問い直すべきだと言う。混迷し、企業も私たちも方向性を見いだせなくなっている時代だからこその課題だ。 

  (えがみ・ごう=作家)

  *二カ月に一回掲載。

 

この記事を印刷する

PR情報