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【東京エンタメ堂書店】

<扉のむこうへ>SF化された精神史

 他者を理解するのは難しい。それが他の天体の生物との「ファーストコンタクト」だったとしたらなおさらだろう。

◆共生を重んじつつも

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 スー・バーク『セミオーシス』(水越真麻(みずこしまあさ)訳、ハヤカワ文庫・1145円)は、環境破壊で荒廃した地球に見切りをつけ、別の惑星に入植した数十人の人間たちとその子孫、7世代100年に及ぶ年代記だ。平和を意味するラテン語「パックス」と名づけられたこの星には、多様な植物が繁殖し、動物も存在した。

 当初、人類は地球同様に生態系の頂点に立とうとするが、地球より10億年前に誕生したこの星の植物は、高い知能を持っていた。彼らは果実に有毒物質を生じさせ、人類を排除しようとする。やがて人類は彼らと戦うことから、共存を目指す方針に転換していく。

 パックスでは、「共和国」の精神に共感し、その目標を共有する生物はすべて市民と認める方針をとる。だが、知的植物と人類は、共生と平等を重んじつつ、互いに警戒を怠らない。相手を尊重しながら、より多くを得ようとする。いわば相互に「家畜化」をもくろみ続けるのだ。

 両者の関係性をはじめパックスのありようは、国民統合や政治文化における米国的な価値観や行動原理を想起させる。これはSF化された米国の精神史でもあるのだ。

 高度な知性を持ち、人類とも意思の疎通可能な「竹」のスティーブランドは、長い寿命と巡らされた根と茎を持っている。歴史を俯瞰(ふかん)する彼の言葉が、時に「旧約聖書」の神と人類の契約のように響くのも興味深い。

◆科学とオカルト融合

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 もう一冊のジェイムズ・P・ホーガン『火星の遺跡』(内田昌之(うちだまさゆき)訳、創元SF文庫・1296円)は、火星の荒野で発見された1万2000年前の巨石遺跡を巡る物語だ。世界各地の古代文明の遺跡と共通性があり、太陽系規模の太古の文明の存在を示唆していた。

 遺跡の扱いを巡り、宇宙開発企業と、考古学者や地質学者が対立。企業は営利優先で、遺跡を軽視しているかに見えたが、実は失われた文明の英知に関心を寄せていた…。

 科学的な合理性を重視する「ハードSF」で知られる著者だが、本作は超古代文明というオカルト的なテーマを取り入れている。同じSFでも、水と油とされる両者の魅力が巧みに融合されている。

長山靖生=評論家

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 この欄では、各界の読書の達人がさまざまなジャンルのお薦め本を紹介します。

 

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