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【東京エンタメ堂書店】

<江上剛のこの本良かった!>いつも弱者に視線 「清武節」で振り返る大失敗

 ノンフィクション作家の清武英利(きよたけひでとし)さんは、山一證券の「敗戦処理」を担った人たちを描いた『しんがり 山一證券最後の12人』で二〇一四年度の講談社ノンフィクション賞を受賞し、今が一番脂の乗った作家である。実は、私とは縁がある。共に事件をきっかけに作家になり(銀行員だった私は第一勧銀総会屋事件、新聞記者だった清武さんは巨人軍との訴訟騒ぎ)、何よりも総会屋事件の際、取材される側とする側で真剣に攻防した仲で、今も親しくさせていただいている。

◆不良債権回収者の矜持

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 <1>『トッカイ 不良債権特別回収部 バブルの怪人を追いつめた男たち』(講談社、一八三六円)

 その清武さんが今回取り上げるのは、バブル崩壊という日本経済の未曽有の敗戦処理を担った人々だ。

 バブル崩壊で百八十以上の金融機関が破綻したが、最初は住宅金融専門会社(住専)だった。この不良債権を回収するために設立されたのが、住宅金融債権管理機構(住管機構、後の整理回収機構)だ。

 初代社長は「平成の鬼平」と言われた中坊公平。彼の厳しい指導の下で、住専の母体行の銀行員や破綻した住専の社員だった面々が不良債権の回収に苦悩するさまを、清武さんは徹底した肉声取材で描き切る。

 私も仲間と総会屋や暴力団から不良債権を回収したが、これほど損な役回りはない。家族や自分の命を危険にさらしながらも(私も脅迫状を送られた)、あまり評価されない。しかし機構の面々は、悪徳債務者の逃げ得を許さない。京都の怪商・西山正彦との隠蔽(いんぺい)資産を巡る攻防は、息詰まる緊張感がある。

 清武さんは、彼らを将棋の「奪(と)り駒」だと言う。不良債権を作った会社の社員だった人間が、その債権を回収するからだ。それでも彼らは「奪り駒」の矜持(きょうじ)で奮闘する。その心の奥底には何を抱いていたのか。丁寧に聞き、書き綴(つづ)る。

 清武さんの視線はいつも組織の弱者に向かう。そして「清武節」と称すべきその筆は、まるで浪花節のように湿り気を持ち、情緒的で読者の胸を打つ。平成バブルも遠くなり、令和新時代になった今、過去の大失敗をあらためて振り返るために、一読をお勧めする。

◆長期低迷は人災だった

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 <2>『切り捨てSONY リストラ部屋は何を奪ったか』(講談社、一七二八円)

 日本を代表する家電メーカー、ソニーの酷薄なリストラの実態を多くの関係者の取材で克明に描く。残酷な首切り。延べ約八万人も削減対象になった。「要らない人間だ」と宣言された社員は「キャリ開」(キャリア開発室)に異動する。そこは「ガス室」と呼ばれている。あのホロコーストをイメージさせる呼び名だ。キャリア開発とは名ばかりで、転職先が見つかるまでの飼い殺しだ。

 いったい「要らない人間」とはどんな人間なのか。本書は有能な人材が切り捨てられる実態を描きつつ、実は日本経済の長期低迷の原因が無能な経営陣による人災なのだと、あらためて教えてくれる。

◆カネにとり憑かれた末

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 <3>『プライベートバンカー 完結版 節税攻防都市』(講談社+α文庫、九七二円)

 主人公は杉山智一(ともかず)(実名)という四十代の証券マン。彼は日本を捨てシンガポールに活躍の場を求める。

 彼の顧客は日本の富裕層だ。何億という資産を日本の税務当局にむしり取られずに相続しようと腐心している。彼らは五年間海外で暮らし、日本の非居住者になれば相続税を払わなくても済むというルール(二〇一七年の法改正で現在は十年)のために異国で孤独な日々を送る。

 「五年はここで頑張らないといかん。相続は大変だよ。我慢することが大事だ」と言い、赤道直下の国で美味(うま)くもない寿司(すし)をつまみながらする味気ない生活。金持ちは、みんなうまいことをやっているんだと怒りを爆発させるか、カネにとり憑(つ)かれた実態に哀れさをもよおすか、果たしてあなたはどっちだろうか。

 (えがみ・ごう=作家)

 *二カ月に一回掲載。

 

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