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【東京エンタメ堂書店】

<小林深雪の10代に贈る本>落ち込むときこそ「絶望読書」

 自分が暗く落ち込んでいるときには、明るくポジティブな作品はまぶしすぎます。悲しいときは明るい曲より、気持ちに寄りそってくれる悲しい曲を聴いた方が、心が慰められるときがあります。本も同じです。雨で気分がなんとなく落ち込む、そんな日は「絶望読書」を。

◆とことんマイナスに

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 <1>カフカ著、頭木弘樹編訳『絶望名人カフカの人生論』(新潮文庫、五六二円)

 『変身』で世界的に有名な、あのカフカが、まさかこんなに絶望していたとは! カフカは、生前は作家として認められず、病弱で貧困の中、四十歳、独身で亡くなります。

 「僕は同級生の間では馬鹿(ばか)で通っていた」

 「人生に必要な能力をなにひとつ備えておらず」

 「運動どころか、身動きするのも億劫(おっくう)で、いつも虚弱」

 この本は、カフカの残した日記や手紙、ノートなどの言葉をまとめたものです。カフカは、将来に、夢に、世の中に、人づきあいに、そして、自分と自分の小説にも絶望し、次から次へと弱音を吐きまくります。

 「『変身』に対するひどい嫌悪。とても読めたものじゃない結末。ほとんど底の底まで不完全だ」

 人には、がんばりたくともがんばれないときがあります。深く落ちこんで、悲しみの底にいるときは、カフカの言葉を読んで、とことんマイナスになってみてもいい。「すぐに立ち直ろうとしなくていいんだ」と思えたら、心が楽になりますよ。

 元気な人は、「ここまでネガティブ!?」と笑いながら読んでください。いつか、泣きながら読む日がくるかもしれませんから…。

◆ネガティブ日本代表!

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 <2>太宰治著『走れメロス』(新潮文庫、四三二円)

 「生(うま)れて、すみません」

 ネガティブな作家日本代表といえば、やはり太宰治でしょうか。まず一作ならば、この本に収録されている短編「ダス・ゲマイネ」を読んでみてください。文庫の解説によると、タイトルはドイツ語で「通俗」という意味と津軽言葉の「んだすけまいね」で「だからダメなんだ」のダブルミーニング(二つの意味)のようです。

 「当時、私には一日一日が晩年であった」という一行で始まり、「人は誰でもみんな死ぬさ」という一行で終わります。

 四人の若者たちが、上野の甘酒屋さんで芸術論を語りあう。その中に作家として太宰治が登場するんですが…。「太宰っていうのは、恐ろしく嫌な奴だぞ」と散々にこき下ろされ、「バケモノ」と仲間に殴られたりするんです。そこまで卑下しなくていいのに、と思ってしまうほど。

 気に入ったら、次は、長編の『人間失格』も読んでみてください。衝撃の絶望度です。

◆暗い言葉の連打!!

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 <3>萩原朔太郎著『青猫 萩原朔太郎詩集』(集英社文庫、四一一円)

 <人家は地面にへたばつて/おほきな蜘蛛(くも)のやうに眠つてゐる。/さびしいまつ暗な自然の中で/動物は恐れにふるへ/なにかの夢魔におびやかされ/かなしく青ざめて吠(ほ)えてゐます。/のをあある とをあある やわあ/(中略)/「犬は病んでゐるの? お母あさん。」/「いいえ子供/犬は飢ゑてゐるのです。」>

 有名な「遺伝」という詩ですが、読むと何か違和感を感じませんか? 犬の遠吠えは、「ウオーン」が普通なのに、異様なオノマトペ(擬音語)。「いいえ子供」という現実ではありえない親子の会話。「さびしい」「まっ暗」「恐れ」「病む」「飢え」という暗い言葉が連打され、タイトルも恐ろしい。

 孤独と不安と心細さと、ある夜に感じた絶望と。萩原朔太郎の詩は、どれも読むたびに、本能を揺さぶられるような凄(すご)みを感じます。

 *毎月第四月曜掲載。

<こばやし・みゆき> 『作家になりたい!(5)』(講談社青い鳥文庫)発売中。

 

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