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【東京エンタメ堂書店】

「華文(中華系文学)」絢爛 SF・ミステリーに新潮流!

 今や国際社会で最も影響力を持つ国の一つとなった中国だが、本の世界でも躍進著しいのをご存じだろうか。例えば今月、邦訳版が発売された劉慈欣(りゅうじきん)の『三体』は世界中で翻訳され、シリーズ累計は発行2100万部といわれる。今回は愛してやまない早川書房から、新たな潮流となった華文SF、華文ミステリーを紹介する。 (運動部長・谷野哲郎)

◆世界が注目 「劉慈欣」作品

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 アーサー・C・クラークやアガサ・クリスティ。これまでSFやミステリーといえば欧米作家が主流だったが、その常識はもはや時代遅れといえる。近年、世界で耳目を集めるのが、中国や台湾、香港といった中華系作家が書く華文小説。中でも劉慈欣の<1>『三体』(二〇五二円)は世界で最も知られる一冊となった。

 二〇〇八年に中国で発刊。国内でベストセラーになると、一四年に英訳版が発売され、米国でも人気が爆発した。著名人にもファンが多く、フェイスブックのザッカーバーグが大絶賛すれば、オバマ前大統領は劉本人に対面したほど。劉は一五年に最も優れたSFに贈られるヒューゴー賞長編部門をアジア人として初めて受賞した。

 物語は文化大革命で物理学者の葉哲泰(ようてつたい)が粛清される場面から始まる。その娘・文潔(ぶんけつ)は辺境の極秘施設に収容されるが、ある日、奇妙なことに気付く。それが人類の未来を左右する大事件につながるとは知らずに…。巨大なパラボラアンテナ、相次ぐ科学者の死、VRゲーム。謎やアイデア全てが上質で面白い。

 科学×歴史×人の業×エンターテインメントとでも言えばいいのか。クラークはもちろん、カール・セーガンやエドモンド・ハミルトン、グレッグ・イーガン、また小松左京に小川一水(いっすい)ら、古今東西の名作SFの要素を随所に含みながら、極めて独創的に仕上げている。そこがすごい。

 『三体』という聞き慣れないタイトルは天体力学用語。三つの天体が互いに万有引力を及ぼし合いながら行う運動を解く証明問題のことだが、この表題こそが物語の鍵を握る。『三体』は三部作の第一部で、第二部『黒暗森林』、第三部『死神永生』と続く大作。映画監督のJ・キャメロンが興味を示しているというのもうなずける話だ。

◆近未来×貧富の差

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 この作品を欧米に知らしめたのが、中国系アメリカ人作家で訳者でもあるケン・リュウ。精力的に華文小説の英訳を手掛けており、中でもリュウが選んだ新進気鋭七作家による短編集<2>『折りたたみ北京』(二〇五二円)は、早川書房で二〇一八年ベストSF海外編の一位となった。

 表題作は貧富の差によって三層に別れた近未来の北京が舞台。一定時間でルービックキューブのように回転する街の最下層に住む男を描く。ほかにも秀作が多く、中国版『一九八四年』といえる「沈黙都市」などに驚かされたが、ここでも劉は頭抜(ずぬ)けている。巻末を飾る「神様の介護係」は傑作中の傑作と絶賛したい。

◆漢詩×宗教×殺人

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 SFだけではない。ミステリーも同じ。<3>『元年春之祭』(陸秋槎(りくしゅうさ)著、一六二〇円)は、前漢時代の天漢元年に起きた殺人事件を少女が解き明かすというストーリーだ。

 頭脳明晰(めいせき)にして傲慢(ごうまん)な豪族の娘・於陵葵(おりょうき)が探偵役。漢詩の解釈や古代中国の宗教について論戦を繰り広げるシーンもあり、従来の推理小説とは一線を画す。被害者の親族で同年代の少女・観露申(かんろしん)とのやりとりは青春小説の趣さえあり、これまでに見られなかったミステリー。北京生まれで金沢在住という陸は今後が楽しみな作家である。

 中国の文学と聞くと、『史記』『三国志演義』『阿Q正伝』などの歴史的作品を思い浮かべる人が多いと思う。だが、今は多種多様な作品が生まれており、華文SFや華文ミステリーなど、新たなジャンルを獲得しつつある。絢爛(けんらん)たる華文小説。皆さんもぜひ、書店で手に取ってご覧ください。

 

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