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【東京エンタメ堂書店】

<江上剛のこの本良かった!>就職氷河期世代のために

 政府は省庁横断組織を作り、就職氷河期世代(一九九三年から二〇〇四年に高校、大学を卒業した者)の支援に乗り出すことになった。この世代は、バブル崩壊後の不況の直撃を受け、やむを得ず非正規労働者で働かざるを得ない人や引きこもりなど、支援を必要とする人が百万人もいる。彼らが高齢化すると生活保護など社会保障費が膨大になる懸念があるからだ。政府は、彼らの自立支援に助成金を付与する考えらしいが、助成金目当ての詐欺が横行しないことを祈りたい。

◆進む分断化、恐ろしく

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 就職氷河期世代の非正規労働者が社会の最下層階級、アンダークラスを形成していると物議をかもしているのは<1>橋本健二著『新・日本の階級社会』(講談社現代新書)だ。

 著者は日本社会は「もはや『格差社会』などという生ぬるい言葉で形容すべきものではない。それは明らかに、『階級社会』なのである」と指摘、それを実証していく。今まで階級社会の底辺は労働者階級だったのだが、非正規労働者の増加で「階級以下」の存在「アンダークラス」が形成され、労働者階級が分断された。彼らは格差解消のために所得再分配への強い要求を持っているが、一方で排外主義的だ。以前は平等への要求が平和への要求と結びついていたのだが、変わっている。著者はこれをファシズムの兆候ではないかと懸念する。

 興味深いのは各階級の政党支持分析だ。資本家階級を中心とした自民党支持者は格差拡大容認で排外主義、軍備重視に凝り固まったカルト的と著者は言い切る。日本社会を階級に分断されたと見る時、今回の参議院議員選挙で「れいわ新選組」が躍進した理由も本書から読み取れるだろう。階級化による社会の分断化がこれほど進行しているのかと気づかされ、恐ろしくなる。

◆生活の厳しさ、克明に

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 <2>北川慧一、古賀大己、澤路毅彦著『非正規クライシス』(朝日新聞出版)

 人手不足が叫ばれながらも二〇一七年度非正規労働者は二千三十六万人(全労働者三千四百二十三万人)となり、37・3%と高どまっている。雇用が増えても収入が少ない非正規が増えているだけでは社会も安定しないし、消費も上向かないだろう。本書は非正規労働者の実態を克明にルポし、その生活の厳しさに胸が痛む。

 この中で、ある三十五歳の就職氷河期世代の男性が登場する。彼は資材会社の派遣社員として時給千百円で働いている。彼は都内の私立大学に入学したが、学費が払えず中退し、非正規労働者となった。正規社員を志したが、リーマン・ショックで頓挫。その後は非正規の仕事で暮らしているが、蓄えもなく未来は見えない。新卒一括採用の日本では大学を中退したら、人生のチャンスはないと嘆く。

 こうした非正規ミドルのサポートとして東京しごとセンターの取り組みを紹介している。センターによると、非正規ミドルの共通点として、正社員としての教育を受けていないためコミュニケーション能力に欠ける傾向にあるという。そのため一層、正社員への道が遠くなる。政府は、非正規労働者のために現場で汗を流している人やルポしたジャーナリストたちの意見を聞き入れ、対策を講じた方が実効が上がるのではないか。

◆児童虐待死の原因にも

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 <3>朝日新聞取材班著『増補版 子どもと貧困』(朝日新聞出版)

 非正規労働者の増加の影響は、社会的に最も弱い部分である子どもに対して影響する。日本は先進国でも子どもの貧困比率が高い国である。相変わらず子ども虐待死の報道が減らないが、これも貧困が原因である。ニュースでは悲惨な事件しか報道されず児童相談所に非難が集中するが、本書には地元の医師、福祉相談員、教師、相談所職員などが協力して、貧困児童に気付き、母子ともに救援している事例が多数ルポされている。貧困の実態には目を覆いたくなるが、こうした救援の具体例にはほっとさせられる。貧困とはなにか?ということだが、目に見えない貧困もある。普通の家庭なら与えられる食事、おもちゃなどがないのも貧困なのである。スマホを持っていても貧困なのである。「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」とトルストイは言ったが、子どもの貧困対策は、それぞれの子どもによって対策が異なるという難しさを教えられる。

 (えがみ・ごう=作家)

 *二カ月に一回掲載。

 

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