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【東京エンタメ堂書店】

<江上剛のこの本良かった!>巨大化中国 どう向き合うか

 米中対立は中国全体主義と米国自由主義との戦いの様相を呈してきた。日本は巨大化、強権化する中国にどう向き合えばいいのか? 悩みは深い。

◆痛烈「無用の用」

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 <1>玄侑宗久(げんゆうそうきゅう)著『荘子と遊ぶ―禅的思考の源流へ』(ちくま文庫、九〇二円)

 著者のところに荘子は勿論(もちろん)だが、老子、孔子、孟子などが訪ねてきて自分たちの思想を語る。まるでファンタジー小説を読んでいるように多様な中国思想に触れることができる。そして中国思想が私たちの血肉になっていることにあらためて気付かされる。

 本書で最も感動したのは「無用の用」だ。要するに役に立たないものこそ役に立つということ。櫟(くぬぎ)の大木の物語が紹介されている。大工の棟梁(とうりょう)と弟子がとてつもなく大きな櫟に出会う。弟子はその巨大さに感動するが、棟梁は「あれは役立たずの木だ」と言う。船にすれば沈む、棺桶(かんおけ)を作れば腐るからだ。すると棟梁の夢に櫟の大木が現れ「無用(役立たず)であったから大木になった。無用こそ大木になるためには有用だったのだ」という。

 荘子は、この物語で「有為」よりも「無為」の価値を説く。これは「用の用」、すなわち有用、効率化、利益ばかり追求する現代社会への痛烈なアンチテーゼだ。ノーベル化学賞を受賞される吉野彰さんも「基礎研究は十に一つも当たればいい。残り九つの無駄は出る」とおっしゃっている。日本社会は「用の用」を求めすぎるため失敗を恐れイノベーションが起きないのではないか。

◆三国志のスケール感

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 <2>劉慈欣(りゅうじきん)著、立原透耶監修、大森望、光吉さくら、ワン・チャイ訳『三体(さんたい)』(早川書房、二〇九〇円)

 話題のSF小説だ。残念ながら私の乏しい知識では本書を十分に理解できないが、なぜか面白い。ぐいぐいと引き込まれる。というのは一九六〇年代の文化大革命の中国から始まるからだろう。この革命には私も大いに影響されたからだ。

 主人公の葉文潔(ようぶんけつ)は理論物理学者の娘として生まれる。父は文革の反動学者として糾弾され、紅衛兵(こうえいへい)たちに大衆の前で撲殺されてしまう。葉は反動学者の娘として内モンゴルに下放され、死ぬほど辛(つら)い生活を送る。彼女は天才的な天体学者なのだが、父の無残な死の影響で人類の行為は全てが悪であり、自ら道徳に目覚めることはないと確信する。

 葉は中国政府が宇宙人とコンタクトを取る目的の施設「紅岸」で勤務する。彼女はここで地球外からのコンタクトを受け、独断で人類は自分の力で悪を克服できないため宇宙人の力を借りたいと応答する。葉がコンタクトしたのは三体世界に住む宇宙人。彼らが地球に近づく。彼らは救世主なのか、それとも地球人を殺戮(さつりく)する破壊者なのか。

 三体世界には太陽が三つもある。それをコントロールする方法が見つからないため窮余の策として三体人は地球侵略を試みるのだ。実際にこの三体問題は、三つの天体が互いに万有引力を影響させながらどのような法則で運動するのかという天体力学の解答不能な問題なのだという。

 高邁(こうまい)な物理学の知識をベースにした圧倒的なスケールの小説。中国には三国志や水滸伝などスケールが大きい物語が多い。本書はそれらに匹敵するだろう。中国は小説でも世界を支配するのか。

◆現在の姿 歴史の一コマ

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 <3>岡本隆司著『世界史とつなげて学ぶ 中国全史』(東洋経済新報社、一七六〇円)

 著者は日中間の問題を考えるには歴史を正しくとらえる視点が重要だと言う。そこで中国史の展開を一気呵成(かせい)に描き、現代中国のリアルな姿を浮き彫りにしようと試みる。黄河文明から現在まで、まさに中国の成り立ちが編年ではなく大きなうねりとして理解できる。

 現在の私たちは西洋史観で中国を見ているため、それとは全く違う歴史を辿(たど)る中国を異質と感じてしまうのだ。きっと近代化以前は、中国史が私たちの世界史だったのだろう。

 現在の強権、巨大な中国が古来一貫して存在していたわけではない。著者は現代中国も長い歴史の一コマだと言う。現在の姿だけ見て恐怖を覚えない方がいいのだろう。

  (えがみ・ごう=作家)

 *二カ月に一回掲載。

 

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