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【東京エンタメ堂書店】

<ブルボン小林 月刊マンガホニャララ> (7)見守りたい!ホストの子育て

海猫沢めろん原作 川口幸範漫画『キッズファイヤー・ドットコム』 *『週刊ヤングマガジン』(講談社)で連載中。既刊2巻。

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 北海道の人から、クラウドファンディングのお願いメールがきた。廃校になった小学校の、歴史的建築物でもある円形校舎を保存したいという。

 僕が中学高校を近所で過ごしたことを知っていて、その小学校に愛着があるかもと踏んでメールしてきたのだろう。

 目標額は一千万円で、〆切(しめきり)まで三日で、三百万円しか出資は集まっていなかった。

 不憫(ふびん)に思ってお義理で出資し、周囲にも一応、呼びかけてあげた。三日で七百万円は到底無理だろうが……と思っていたら、半日ごと六百、七百万円とグングン出資が増えていく。

 あれ、もしかして、達成しちゃう? ドキドキしてきた最終日は九百万円にまで到達、そのころには「お義理で」と思っていた自分も手に汗を握っていた。応援したい気持ちが必ず終盤にアップする(から出資も増え、より劇的になる)わけだ。クラウドファンディングとはただの借金のようだが、それ自体が「劇場的」で、かつ「参加型」のやり方だと気付かされた。

 『キッズファイヤー・ドットコム』は「ホストが子育て」する漫画だが、クラウドファンディングも作中に活(い)きている。

 イケメンがひしめきあって金で夢をみせるホストの世界は非日常の面白さがあり、育児は身近で切実で、日常で悩む人も多いゆえ、どちらも漫画の題材になる。かっこいい非日常の夢と、かわいい日常の過酷さが同時という漫画はなかったが、かつてのドラマ『パパはニュースキャスター』や仏映画『赤ちゃんに乾杯!』など、子育ての似合わない男たちが奮闘するコメディーはこれまでにもあった。

 今作では人気店の経営を任されるほどの敏腕ホストの家の前に赤ん坊が捨てられているところから幕を開けるが、このホストの世界がしっかり描かれている。凡百の水商売漫画は客の指名を競い合う闘いばかり描くが、今作では皆が店の発展を思い、共闘していく様が描かれる。つまり本作の舞台は「え? ホストの俺が子育て?」というギャップのために選ばれたのではない。

 描かれる子育ても本気だ。夜の世界のもめ事をスマートに解決してきた主人公も、赤ん坊の前では形無しだ。ワンオペで睡眠時間を削られ、トイレで寝落ちする。

 抱っこ紐(ひも)で赤ん坊「同伴」で出勤してみせるが、客にはウケない。ホストが抱っこ紐という「絵面」はいかにも漫画的で荒唐無稽だが、主人公はバカをやっていたのではないことが読み進めるごとに分かってくる。

 「子育てに必要なのは金と人手だ」と端的に把握するまでの、いたって真面目なトライアンドエラーだったのだ。主人公はその子を育てるためにクラウドファンディングを立ち上げる。漫画の一コマごとに出資者への「返礼」が列挙されるのが面白い。成長を見守る基本プランが五十万円。命名権は千五百万円。いわば子育ての「甲斐(かい)」が経済的に可視化される。その可視化で、育児の本質を戯画化してみせてくれた。

 彼らは「炎上」することも見越して戦略を立てる。現実にもネットの炎上で名を売って政治家になる人がいるが、この炎上で提起される育児の方が大真面目だし面白さも桁外れで、見守っていきたさもハンパない。

 (ぶるぼん・こばやし=コラムニスト)

ホストクラブ独特の「コール」で赤ちゃんをあやす=『キッズファイヤー・ドットコム』第2巻から

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