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【東京エンタメ堂書店】

<ブルボン小林 月刊マンガホニャララ> (9)『このマンガがすごい!』で一票も入らなかった中から選ぶ ベスト漫画はこれだ!

羽海野(うみの)チカ『3月のライオン』

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 毎年末に発表される宝島社「このマンガがすごい!」のランキングは、漫画の売り上げに大きく影響を与える「指標」として定着している。

 売り上げだけで漫画をランキングすると『ONE PIECE』などの大ヒット作だけが上位になってしまうが、面白さって多様なはず。識者(書店員や漫画好きの著名人など)が投票でランキングを決定するのが「このマンガがすごい!」だ。だがそのやり方でも取りこぼす面白さがあると、僕は常々思っていた。

 当たり前のようだが識者たちは漫画が好きだ。漫画に慣れちゃっている。だからアイデアにしろ絵柄にしろ「鮮烈」なものにばかり票が集まりがち。

 また、すでに功成り名を遂げた者の作とか、幼児向け漫画、専門的なジャンルやハウツー漫画なども俎上(そじょう)にのぼらない。

 そこで僕は、他誌での連載やラジオ番組で毎年「『このマンガがすごい!』で一票も入らなかった中から選ぶベスト漫画」を発表し続け(一部で)好評を博してきた。第十二回となる今年はこの場を借りて発表します。

 で、今年の受賞は『3月のライオン』に決定!

釣り具に見とれる将棋漫画の主人公=羽海野チカ『3月のライオン』14巻(2018年12月発売)から

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 えっと思うだろう。なにしろアニメ化、映画化もした大ヒット作だし、これまで「識者」との相性もよい(同作は二〇〇九年に四位、一二年に五位、一七年に七位を獲得している)のに。

 これは一つには「集計期間」のせいだ。「前年十月一日〜九月三十日に単行本が発売された作品」が投票の対象になる。『3月のライオン』は近年、年に一冊の刊行ペースで、それが年末刊行になっている(ランクインした際は、年の半ばに新刊が出ていた)。

 より精確に「面白い漫画を啓蒙(けいもう)したい」のならば、投票する人よ、ちゃんと「前の年の三カ月」も考慮してよ! とつい思ってしまう。

 しかし、年に一冊という発表のペース自体に作者の同作に対する気持ちを感じることもたしかだ。人気だからって拙速に語り急ぎたくないし、逆に、あまり重きにかまえて数年に一度の発表にもしたくないのだ。

 漫画には緩急というものがあって、大きな山場ばかりでは作者も読者も疲れる。前回の当欄で語った「ついに巻(かん)」の次には箸休めや寄り道といった、マッタリさせる展開がくる。そういう「熱くない」時期、どの漫画も投票の順位は下がる。

 今作はむしろ、マッタリとした箸休めや寄り道をとても大事にしている。将棋の天才少年が、天才ゆえに家族や学校から疎外され、苦しみながらも周囲の人間と触れ合うことで成長していく。棋士同士の対局も濃密に描くし魅力的なライバルを次々と登場させるので、ただ漫画として盛り上げるならどんどん戦いを畳みかけるべきところ、親しくなった和菓子屋を手伝い、助け続けている。投票対象となった十四巻では恩師の恋のキューピッドまで買って出る。作者の前作のキャラクターがゲスト出演するなど本筋からは離れており、今まで投票してきた者も「今回は見(けん)」と判断したのかもしれない。しかし校長先生とゲストキャラの戦いなど、ギャグに手抜きがない。僕はむしろ「箸休めさえここまで手厚いのか!」と具沢山(ぐだくさん)のサービス精神に感じ入ってしまった。

 最新の十五巻も昨年末刊行だが、年末の得票はどうなるだろう(まさかこっちでV2?)。 

 (ぶるぼん・こばやし=コラムニスト)

<羽海野(うみの)チカ『3月のライオン』> 『ヤングアニマル』(白泉社)で連載中。既刊15巻。得票の有無は書籍版『このマンガがすごい!2020』掲載分から判断した。

 *第3月曜掲載。

 

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