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【東京エンタメ堂書店】

<小林深雪の10代に贈る本> ここではないどこかへ

 新しい年。そろそろ1月も終わりです。少し心が疲れてきたら、いつもと違う景色を見てみませんか? 遠くに行かなくても、本を開けば、ここではないどこかへ行けます。非日常の夢幻の世界を味わえる、3冊の本を紹介します。

◆本に飛びこみ宮城県救う!?

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 <1>堀川アサコ『仕掛け絵本の少女』(小学館文庫、682円)

 主人公は仙台に暮らす中学2年生の音々。神社のフリーマーケットで『仕掛け絵本の少女カイ』という絵本をなぜか間違って買ってしまいます。

 すると、その日の夜中、絵本のページが勝手にめくれて、中から黒いワンピースの三つ編み美少女が飛び出してきます。「あたしは、カイ。最も偉大な錬金術師オリエント・クルスの末えいなの」「戦国武将の血を引く小寺音々。あたしといっしょに南蛮仙人をたおして、この宮城県を救うのよ」って、いったいなんのこと!?

 音々はイトコのタカユキと共に仕掛け絵本の中に飛びこんで、青葉城の天井裏で伊達政宗の密談を盗み聞きしたり、船でエスパーニャへ渡ったり。次々に起こるトラブルを解決していきます。大迷惑だけどわくわくするひと夏の大冒険。最初から最後までノンストップで楽しめます。

◆おばあさんの中に少女が

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 <2>岩瀬成子(じょうこ)『もうひとつの曲がり角』(講談社、1540円)

 小学5年の朋と中1の兄は2カ月前、母の理想の新しい家へ引っ越してきました。でも、理想の家に住んだからといって、家族みんなが幸せになれるわけではありません。

 母と父は小さなことでケンカばかりしているし、朋は通い始めた英会話スクールを、兄は野球部を辞めたがっています。2人とも、もう母のお気に入りの子どもでいることがいやになったのかも…。

 ある日、朋はふと通ったことのない道へ行ってみたくなります。その角を曲がると、道のずっと先には道路にまで木の枝が伸びている家があり、白い花が咲いている。そこで、朋は、1人のおばあさんと1人の少女と出会うのです。

 同じ場所なのに違う時間が流れていて、別の通りが現れる。その不思議な場所で、朋は、おばあさんと少女の正体を知ることになります。

 人は誰でも年を取ります。でも、「おばあさんの中には、少女がずっといる」。朋は、そのことに気がつきます。そして、少しずつ成長していく自分をも受け入れることができるようになるのでした。

◆孤独な熊と北風の娘

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 <3>安房直子『春の窓』(講談社X文庫、693円)

 安房さんの作品は、動物の出てくるファンタジーが多いのですが、孤独な登場人物たちがひそやかに心を通わせる物語が多く、大人になった今でも読むと心にしみます。わたしが特に好きな作品は「北風のわすれたハンカチ」です。

 遠く寒い山に住む孤独な熊の物語です。人間に両親と弟と妹を殺された熊は、胸の中に底知れぬ寂しさを抱えています。そして、それを紛らわすために「どなたか音楽をおしえてください」と家の前に張り紙を出します。

 そこにやってくるのは、北風だけです。北風の父、その次は母。それぞれにトランペットとバイオリンを習いますが、熊の寂しさはますます深くなるばかり。最後にやってきたのは北風の娘でした。

 雪は、ほと、ほと、ほと、って歌いながら落ちてくる。風も雨も花も木の葉も素敵(すてき)な歌を持っているの。娘はそう熊に話し、ハンカチを忘れて帰っていきます。でも、それは、「また会える」という未来への希望です。熊はやっと安らかな冬眠に入るのでした。

 心にポッと小さな明かりが灯(とも)るようなそんな美しい物語が12作収録されています。

      ◇

<こばやし・みゆき> 『おもしろい話が読みたい! チェンジ!』(講談社青い鳥文庫)発売中。

 

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