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【東京エンタメ堂書店】

<ブルボン小林 月刊マンガホニャララ> (11)休校中こそ「元気」な漫画を

逆境でも諦めない。そして元気な仲間。これぞ漫画だ=ときわ藍『夜からはじまる私たち』から

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 新型コロナウイルスの影響で今月三日の予定だった小学館漫画賞の授賞式が延期された。

 僕は同賞のほか、某短歌の新人賞の選考も引き受けていたが、その授賞式は完全に中止とアナウンスされた。漫画賞は「順延」で、後日改めて開催予定があるという。小さな出版社が主催する短歌の賞の世界と違い、漫画(の版元)にはまだ体力があるのだといえる。

 でも体力と別に、漫画の賞だから授賞式を(すぐには)諦めないのだとも思える……というか、思いたい自分がいる。漫画は、それ自体が「諦めない」様子や、その結果への「拍手」を描いてきたものだから。

 今回は休校で退屈する子供のために、漫画自体が元気だと思える作品を紹介したい。

ときわ藍『夜からはじまる私たち』 *全1巻。昨年12月発行。小学館。

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 『夜からはじまる私たち』の作者ときわ藍(らん)は現役高校生。

 表題作は、進学校で挫折し定時制高校に通うようになった主人公が、新たな出会いを経て居場所を得、ダンスで頑張る姿を描く。一読、うまさに驚く。作者自身が読みこんできただろう少女漫画誌のキャラクター造形をしっかりモノにしている(濡(ぬ)れた髪とか細部もうまい)し、動きを出すのが難しいダンスシーンにもキレがある。

 「若いのにすごい」という褒め方では、きっと作者は不本意だろうが、若い眼差(まなざ)しで感得したことが強みにもなっている。

 自信のない子が友情や努力で成長するというプロットは古典的だが、定時制高校で出会う人々への感心の仕方(「気の使わなさ」に気付くところ)に、現代性や若さがうっすら発揮されている。次作も楽しみだ。

原作・鳳ナナ、漫画・ほおのきソラ『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』 *ウェブサイト「アルファポリス」で連載中。既刊2巻。

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 『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』は、ゲームやアニメで描かれる(魔法とかがある)貴族社会で、なんでも拳で解決していくお嬢様の活劇だ。ゲーム的なファンタジー世界になにかのギャップを加味する(商社マンが異世界に転生みたいな)アイデアは今の小説やアニメなどに多い(これも元は小説のようだ)が、今作は「お嬢様」が「強い」だけ。格闘前後もお嬢様の所作を徹底することで面白さを担保している。「ムカついた方を殴る これは淑女の嗜(たしな)みですわ」などの無茶(むちゃ)なセリフが、ノリノリの作画の力でさらに活(い)きた。

日野日出志『地獄のどくどく姫』 *全1巻。1月発行。ゴマブックス。

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 それからファミリーマート限定で刊行中の大ベテラン、日野日出志(ひのひでし)の傑作選が、どれもとてもいい。例えば『地獄のどくどく姫』は、ミミズを蕎麦(そば)のようにすすり牛の血を一升飲み干すのが大好きな謎のどくどく姫が、悪霊に取りつかれた子供たちを救出していく筋だが、子供の取りつかれっぷりが半端ない。サム・ライミもかくやという、治ったとしても立ち直れないレベルの顔面崩壊をみせる。

 オカルトブーム時代ならではのグロテスクさだが、悪霊の呪いっぷりにもコマ運びのテンポの良さにも「元気」が満ちている。今の子供でも恐る恐る読んで、きっとハマるだろう。

 漫画本の表紙のキャラは(買ってくれる)読者の方をちゃんと見るべしというセオリーがあるが、紹介した三冊とも、実にいい顔をみせてくれている(どれも装丁もいい)。ぜひ書店で(コンビニで)漫画と目を合わせてみてほしい。

 これらを読んだ後、冒頭の短歌の賞を主催する出版社に僕はメールを書いた。小規模でもいいから必ず、授賞式はいつかやりましょうよと。(ぶるぼん・こばやし=コラムニスト)

 ※次回は4月20日掲載。

 

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