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【書く人】

日本人の勤勉さ疑う 『定年入門』 ノンフィクション作家・高橋秀実さん(56)

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 定年本がブームだ。会社時代の付き合いが終わる、居場所がなくなる…など、定年後の孤独や虚無感が押し寄せてきそうで怖い。

 本書は柔らかい語り口、説教が一切無い。「イキイキしなくちゃダメですか」というサブタイトルに誘われ、一気に読み終えた。

 「定年本を眺めてみましたが、会社の上司が部下にアドバイスするという本が目立つ感じです。会社員が務まらなかった私は、六十歳まで勤められた人に畏敬(いけい)の念を抱いていますから、視点が違うのでしょう」

 定年を控えた編集者に頼まれ、定年を迎える前後の四、五十人に取材をした。

 例えば、会社員は汎用性がポイントで「自分がいなくても会社は困らない」と自覚することが定年の心得だというホテルマン(55)。「定年後も同じ仕事を続けますか」と聞くと、「自分はホテルに向いていない」と言われた。テレビ制作会社を「向かない」という理由で、たった三年で辞めた著者は驚くばかり。

 本書によると、日本の六十五歳以上の就業率は20・1%(労働政策研究・研修機構、二〇一五年)。米国17・7%、英国9・5%、ドイツ5・4%、イタリア3・4%、フランス2・2%より高い。ところが、「働くことが生きがい」と取材に答えた人は一人もいなかったという。

 「日本人は働き者ではないのに、働き続けているのかもしれません。そもそも仕事は楽しくないし、我慢してやるものだと思って私は生きてきました」

 幼稚園時代、みんなでお遊戯しているのに、一人だけじっとしている写真が残っている。中学生のとき、先生に将来の夢を聞かれて「馬賊になりたい」。遊牧民のイメージだという。

 母親に、仕事にほれるな女にほれろ−と言われて育った。仕事にほれると、熱心になるあまり稼げないという理由らしい。

 そんな生い立ちもあってか、「働くことが美徳」というこれまでの常識ではなく、「あすにでも会社を辞めたい」のが日本人−という前提で社会の制度設計をしてはどうかと提案する。

 「定年延長の流れがありますが、むしろ四十代で一律に定年にして、一度人間をシャッフルした方がいいのかもね。退職願は出しにくいけど、定年なら辞めやすいでしょ。会社も社会も、風通しが良くなるのでは」

 ポプラ社・一六二〇円。

  (中村信也)

 

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