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【書く人】

挫折を経て挑戦の日々 『職業、女流棋士』 女流三段・香川愛生さん(25)

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 藤井聡太七段の快進撃で一躍脚光を浴びているプロ将棋界。日本将棋連盟のプロ制度による「棋士」となるには、原則として連盟の養成機関「奨励会」を卒業しなければならないが、この難関をくぐり抜けた女性は一人もいない。一九七四年に創設された「女流名人“位”戦」が「女流棋士」という名で女性にプロとして活躍できる道を開いた。

 この二月、女流棋士第一号の蛸島彰子(たこじまあきこ)女流六段が引退した。女性で初めて「奨励会」に入会し、初段で退会後、初代女流名人に輝いた人物だ。「蛸島先生は私が女流棋士となって初めて対戦した相手で、その後の歩みに大きな影響を受けた大先輩。何かを受け継いでいかないといけない」という思いから書き上げたのが初の著書となった本書だ。

 「棋士」に比べてはるかに浅い四十四年の歴史しかない「女流棋士」。その知られざる実像を制度面、男性との実力差の背景、普及活動など多彩な観点から浮き彫りにしている。しかし、単なる職業の解説書ではない。自身の生い立ち、勝負にかける思い、「奨励会」での挫折体験など、将棋とともに歩んできた道のりも忌憚(きたん)なく明かしている。

 「盤上がすべてで、自身のことを赤裸々に語るのは美しくない、という意識がこの世界にはあるような気がします。でも、自分の未熟さも含め、そのままを書いた方が理解を深めてもらえると思ったのです」

 十五歳で中学生女流棋士となった後、休場して「奨励会」に入った。待っていたのは「勝つことでしか自分を肯定できない、命が削られるような日々」。重圧に耐えきれずに一年半で退会し、「抜け殻のような虚無状態に陥った」と明かす。

 大学合格を機に「女流棋士」の道を再び歩み出してからは、「何もできなかった高校時代」とは真逆の活躍ぶり。女流王将位を二期獲得する一方、ツイッターで自身の活動を発信したり、他のボードゲームにも積極的に挑戦したりして耳目を集めている。根底にあるのは「将棋界に関心を持つきっかけになってくれれば」との強い思いだ。

 今年、普及活動を企画・立案する株式会社も設立した。挫折を乗り越え、女流棋士という職業に大きな可能性を見いだし、何事にも積極的に挑む姿勢から刺激を受ける読者は多いだろう。

 マイナビ新書・九一八円。 (安田信博)

 

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