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【書く人】

高齢者こそ見た目 『すぐ死ぬんだから』 脚本家・内館牧子さん(70)

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 戸惑い、あがきつつ定年後の人生を築いていく男性を描いた小説『終わった人』に続き、衝撃的なタイトルの小説を出した。今回の主人公は、夫婦で営んでいた酒店を息子に譲り、隠居生活を送る七十八歳の女性。実年齢より上に見られたのをきっかけに、外見磨きに目覚める。

 執筆の背景には、七十五歳以上の後期高齢者は「生きにくいんじゃないか」という思いがあった。「ハローワークに行ってみたら、六十代だとまだ、選ばなければ仕事はあるんですよね、でも、八十代だとぜいたくを言わなくてもないし、体力的にも大変になってくる。でも頭はしゃんとしている」。折しも八十代が集まる場に行く機会があり、若く見える人とふけて見える人、見た目の差が激しいことに驚いた。「『痛い』ぐらい若作りしちゃうことも経て、人目をある程度気にして生きることって大事かな、って思いましたね」

 そんな後期高齢者を観察していて気がついたのは「どうせすぐ死ぬんだから」という台詞(せりふ)が何もしない免罪符になっていること。「こんな便利な言葉はなくて、そう言うと全部どうでもよくなり、自分を楽にする。おしゃれする必要もない。でも、そういう姿を見る娘や息子は嫌ですよね。いつまでもお母さんはきれいで、お父さんもかっこよくいた方がいい。反対する人はいっぱいいるだろうけど、年を取ったら『見た目ファースト』っていう話を描きたかった。高い物を着てるとか顔がいいとかじゃなくて、いかに自分に手をかけているか」

 外見は内面に作用し、見た目が変われば生きる姿勢も変わる。おしゃれな高齢者は周囲の人も気持ちよくさせる。「作曲家の吉田正さんの奧さんは、九十歳過ぎで亡くなったんですけど、メークも服もきれいで、私は憧れていた。そういう人と一緒にいると、こっちの元気が出るんですよね」

 夫の死をきっかけに、主人公は思いも寄らぬ夫の顔を知る。高齢者のリアルな描写やちょっと毒のあるやりとりに引き込まれつつ読んでいると、物語は衝撃的な展開を迎える。『終わった人』刊行後の取材で、品よく老いるために必要なものを問うた私に、内館さんは「美意識」と答えてくれた。今作の登場人物は、その具体像を示しているようにも思えた。

 講談社・一六七四円。

  (岩岡千景)

 

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