東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > Chunichi/Tokyo Bookweb > 書く人 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【書く人】

世界に誇れる出版文化 『日本の漫画本300年』漫画・諷刺画研究家 清水勲(いさお)さん(79)

写真

 海外でも人気が高く、映画の原作にもなる日本の漫画。それが量産され、商品として売り出されるようになってから三百年になる。一七二〇(享保五)年に大坂で『鳥羽絵欠(とばえあく)び留(どめ)』『鳥羽絵三国志』など、「鳥羽絵」本と呼ばれるものが出たのが最初。本書は茨城大准教授の猪俣(いのまた)紀子さんとの共著で、江戸期から現代までの主要な漫画本計九百八十八冊を図版とともに紹介し、漫画の歴史をたどる。

 「鳥羽絵」本は、人物が手長・足長、目が点で描かれ、近代のナンセンス漫画にも通じる新しさがある。大衆に支持されて大ベストセラーとなり、戯画本の出版は名古屋、江戸へと広がっていく。百年後には葛飾北斎の『北斎漫画』が世相風俗を活写し、公家や武士を痛烈に諷刺して喝采を浴びる。明治期の河鍋暁斎(かわなべきょうさい)、大正期の岡本一平、昭和戦前期の田河水泡(たがわすいほう)と、時代を画する作家が登場する。

 「三百年前の日本には、多数の版元とともに、木版画の彫師(ほりし)や摺師(すりし)をはじめ製本業者がいて、書店など販売網も整っていた。当時、これだけ出版文化が栄えていたのは、世界的に見ても稀有(けう)なことだと思います」

 編集者だった清水さんが漫画に興味をもったのは、明治期に来日し、時局諷刺雑誌『トバエ』を発行したフランス人ジョルジュ・ビゴーの諷刺画を知ったのがきっかけ。一九七八年に『明治の諷刺画家・ビゴー』を刊行。その後、関心の領域が前後に広がり、勤めを辞めて研究・著作に専念する。

 漫画研究を続けてこられた理由を問うと「誰もやっていなかったから」と答える。「江戸の文化史を見ても漫画はほとんど出てこない。皆さん知らないんですね、江戸期だけで面白い戯画本が百冊もあるということを」

 横井福次郎や手塚治虫の活躍で始まる戦後の漫画は、劇画本、ギャグ漫画、コミックと多彩な展開を遂げ、辰巳ヨシヒロ、水木しげる、白土三平、赤塚不二夫、池田理代子、さくらももこ、堀田かつひこ、吉田戦車…スター作家を挙げてもきりがない。漫画の隆盛は明らかだが、これからどこに向かうのだろう。

 「いまはコミックというストーリー漫画が全盛に近いところに来ていて、今後も多彩な才能が生まれるでしょう。一方で、政治漫画の力が弱まっているような気がしますが、新聞や雑誌の四コマ漫画は健在なので、その中から一枚絵の諷刺漫画も力を盛り返してくるのかもしれませんね」

 ミネルヴァ書房・三〇二四円。  (後藤喜一)

 

この記事を印刷する

PR情報