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【書く人】

考えの爆発や化合が面白い 『伝達の整理学』 英文学者、評論家・外山滋比古(とやましげひこ)さん(95)

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 知識の詰め込みではなく、自分の頭で考える大切さを説いた一九八三年刊行の『思考の整理学』(筑摩書房)で知られる。学生を中心に時代を超えて読み継がれ、文庫は百十九刷、二百三十四万部を記録。最近ではプロ野球中日にドラフト一位で入団した根尾昂(あきら)選手の愛読書としても注目を浴びた。

 「三十五年前と読む人は違うけれど、同じように面白いと思ってくれる。借りたり盗んだりした考えではないから、古くならないのでしょう」

 そんな外山さんが「もう少し年齢の高い人に」と書き下ろしたのが本書だ。思考を深めることから一歩進み、誰かに伝えることがテーマ。「自分の考えを伝えたときに火花が散ったり爆発が起こったりと面白いことが起こる。『思考−』は論理的で物理的な世界、『伝達−』は美学的で化学的な世界を書いた」と独特のイメージで語る。

 そもそも、日本人は伝達が苦手だと指摘する。「読み書きはできるが、考えを相手に話し、相手の言葉を聞くことができない。伝達が身についていない」。自分の思ったことをただ言い合う。上意下達ばかりで横の情報交換が少ない。同質的なグループ内のコミュニケーションに終わる−。周りを見れば、そんな魅力ない「伝達」が散見される。「心揺さぶる伝達、面白い伝達がない」

 では求められる伝達とは? 外山さんは「相手に納得してもらうように表現すること。立場の違う人が気持ちを近づけ、ふと共鳴し、ときに感激すること。考えを交換する間に一種の化合が起こると面白かった、となる」と力説する。

 「伝達のスタイル」「伝達のテクニック」など五章からなる本書だが、伝え方を具体的に解説する「ハウツー本」ではない。外山さんが伝達について思いを巡らせ、こしらえた思考に読者が触れられる一冊だ。「ほかの本を読んで出てきたんじゃない。生活する中で、どうも自分の考えを他の人にわかってもらえないなというのを繰り返すうちに、伝達とはどういうものかを発見したんです」

 著作物は三百を超えるが、九十代半ばとなった今も執筆意欲は旺盛だ。「面白いな、誰も言っていないな、新しいな、書きたいなと。伝えたいよりも、表現したいんでしょうね」

 ちくま文庫・六九一円。 (世古紘子)

 

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