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【書く人】

修業と今 師匠いてこそ 『フランス座』タレント・作家 ビートたけしさん(72)

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 今やお笑い界の大御所となったビートたけしさんが、芸人修業に励んだ時代を描いた自伝的小説『フランス座』を出した。師匠・深見千三郎(ふかみせんざぶろう)さんとの出会いから別離までや、夢を抱いてしまったがゆえに焦り、もがいた青春の日々などをつづっている。

 「フランス座」は当時、東京・浅草にあったストリップ劇場で、幕あいにコントが演じられていた。「フランス座の芸人っていうのは踊り子さんを見にきた客に、急に出ていって笑いを売る。だから押しつけなんですよね。殿様商売じゃなくて『笑わないなら笑わせてやるぞ』ってとこで鍛えられて、出発点としてはいいとこだったなあって」

 「原点」といえる時代を今、フィクションで描くのはなぜか。「その時代が入った本は『浅草キッド』とかいろいろ出してるけど、口述筆記で、読み直してみるとちょっとニュアンスが違うんだよね。一回ちゃんと書いておこうって。時がたったら思い出すこともいっぱい出てきて、小説らしく描く力も少しはついたかなって」「フィクションにしないと痛ましいよね。相手の気持ちもあるし」

 <ちゃんと修業しないと、売れてもすぐ人気なくなるぞ、タケ!>−。師匠の言葉や態度は厳しくも、情がにじむ。

 「今、若手のお笑いの人はこういう経験をするところが全然なくなって、師匠と弟子っていう関係はあまり知らない。なくなったのをやれとは言わないけど、『悪いけど、若手が俺とか(明石家)さんまとかを追い越せないのはなぜだかわかるか? 地肩が違うんだ。師匠との関係でひどい目に遭ったり先輩に怒られたりしてるから、オイラは耐久力すごいんだよ』と。今の若手は殴られたことも説教されたこともないでしょ。どっちがいい悪いじゃないけど、こういう世界があったってことを書き残しておけば、まぁいいかなと」

 映画監督や情報番組の司会もこなし、エッセーや小説も次々に執筆。「今回はどんな肩書にしますか?」と尋ねると「タレント、作家、前科一犯って書いといて」といつもの軽妙な口ぶりで笑わせた。「コメディアンはかっこよくなきゃダメだ」「笑われるんじゃなくて笑わせるんだ」。そんな師匠の教えはずっと心に残っているという。その出会いは確かに「ビートたけし」を形づくったと、小説からもインタビューからも感じられた。

 文芸春秋・一四〇四円。 (岩岡千景)

 

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