東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > Chunichi/Tokyo Bookweb > 書く人 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【書く人】

混沌の世、心も謎めく 『刀と傘 明治京洛(きょうらく)推理帖(ちょう)』 ミステリ作家・伊吹亜門(いぶきあもん)さん(27)

写真

 四年前、短篇推理小説の公募新人賞「第十二回ミステリーズ!新人賞」を史上最年少の二十四歳で受賞した。受賞作を軸に四篇を加えて仕立てた幕末・明治ミステリの連作集が本書。初の著作だが先月、「第十九回本格ミステリ大賞」の候補にノミネートされた。「新人の身で候補になっただけで十分。大きな励みになります」と笑顔で語る。

 新人賞の受賞作「監獄舎の殺人」の舞台は明治五年の京都。夕刻に斬首で処刑される運命だった罪人が、毒を盛られた昼食で死んでしまうという奇っ怪な事件の謎に、元尾張藩士の若者・鹿野師光(かのもろみつ)と後の司法卿(きょう)・江藤新平のコンビが挑む筋立てだ。

 「ミステリの面白さは意外な真相が暴かれる瞬間にある。さらに、もう一つ別の真相があり、それまで見ていた世界がネガポジのように反転すると読者は一層驚くはず」。選考委員の一人、米澤穂信(ほのぶ)さんは「この時代だからこそのミステリ、深い余韻を残す結末」と高く評価した。

 連作集は慶応三年、鹿野と江藤の出会いから始まり、異なる正義を掲げる両人の対立、そして別離が事件の謎解きとともに描かれ、最終話「そして、佐賀の乱」で驚きの結末を迎える。登場人物の心理の襞(ひだ)、時代の薫りも伝わってくる力作。江藤を探偵役に据えたのは、山田風太郎の小説「首の座」で描かれた独特の人物像から発想したという。

 母親が推理小説の大ファンで、本棚に国内外のミステリ本がずらり並ぶ家庭で育った。進学した同志社大では「ミステリ研究会」に所属。「学生時代の思い出に」と初応募した作品で金的を射止めた。卒業後は京都市内の製薬会社に入社。事務職として勤務しながら創作を続けている。

 現在挑んでいるのは、幕末に成立した薩長同盟を主軸にした初の長篇ミステリ。「混沌(こんとん)として何が起きてもおかしくなかった時代が幕末。極限に置かれた人間の心理と謎を描く面白さを、この時代に感じる」

 名古屋市で生まれ育った。連作集では鹿野に時折、名古屋弁で語らせ、市営地下鉄の駅名と同じ名の人物を各話に登場させた。すべて「名古屋愛」の成せる業である。大尊敬する作家も名古屋出身の連城三紀彦さん(二〇一三年死去)。「作品はミステリとしても小説としてもすごい。大きな影響を受けました」

 東京創元社・一八三六円。 (安田信博)

 

この記事を印刷する

PR情報