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【書く人】

本質を際立たせるために 『山口晃 親鸞(しんらん)全挿画集』 画家・山口晃さん(49)

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 <とんでもない本が誕生した>−。作家の五木寛之さんが夕刊紙に連載するエッセーにこう吐いた。五木さんが本紙などに足掛け七年、三部にわたり連載した小説『親鸞』全千五十二回の挿画すべてを一冊に網羅したこの本のことだ。ほめ言葉である。<私の小説が忘れられても、この挿画集が時空を超えて生き続けるだろうことは疑いない>と言い切っているのだから。

 描いた山口さんは、過去と現代が混然一体となった街を俯瞰(ふかん)した絵で知られる当代屈指の人気画家。放送中の大河ドラマ「いだてん」のタイトルバックも手掛けている。連載中から挿画をスクラップするファンもいたほど画集の刊行が熱望されていたが、全作品にコメントを付けて連載終了から四年半を経て、ようやく出版にこぎ着けた。

 「あえて従順すぎない挿絵にしました。文章と同じことを描(か)いても複眼にならず、挿絵の意味がない。違うことを描くことで本質を際立たせたい」と大御所の作家に「思い切って当たっていった」。古典的な風景描写や劇画タッチで躍動する人物、コミック調のコマ割りや駄じゃれの絵解き…。その自由奔放な発想に、連載前は「思う存分やってください」と言っていたはずの五木さんから、主要人物の顔や後ろ姿を描くことが禁じられる事態に。

 <描こうとするそばから「それはダメ」と云(い)う声がして描けません><大丈夫とか駄目とか判断出来ぬよう目をつむって描きだした>。絵に添えられた言葉に生みの苦しみがにじみ出ている。だが「作品のための“殴り合い”はいとわない。(逆に)作品から逃げるやつは軽蔑します」と普段の飄々(ひょうひょう)とした語り口からは信じられない強いセリフが飛び出した。

 迷った末に描けなかった絵もある。親鸞の妻・恵信(えしん)が病者を洗うために肌をさらす場面がその一つ。「“バーチャル(仮想)五木先生”という忖度(そんたく)が自分の中に出てきて止めた気がします。後で先生は描いてほしかったんだと聞いて、あー、描くんだったなーと。先生の考えが降りてきて同じ方向を向く“五木降ろし”の状態と、先生の方を見てしまう“バーチャル五木先生”の状態は似て非なるもの。そこを間違えると筆が全く進まなくなった」

 本の中では五木さんが登場人物に誰の映像イメージを重ねていたのかも明かされる。マツコ・デラックスさんの名が出てきたのには驚いた。

 青幻舎・五九四〇円。 (矢島智子)

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