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【書く人】

「移民の時代」すでに 『ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実』 ウェブマガジン編集長・望月優大(ひろき)さん(33)

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 今こんな本が読みたい、と望んでいた一冊が出た。

 一日に改正入管難民法が施行され、五年で三十四万人超の外国人労働者を受け入れるという在留資格「特定技能」が新設されたばかり。今後、日本はどうなっていくのか。

 「執筆のために統計を調べて一番衝撃的だったのは、永住権を持つ人がものすごく増えて、百万人を超えていること。政府が『移民』を否定しているのとは逆の事実が起きています」

 一九八八(昭和六十三)年に約九十四万人だった在留外国人は、昨年六月末時点で約二百六十三万人と三十年で約三倍に増加。さらに日本国籍を取得した人などを加えれば「移民」は四百万人を超える−。客観的な統計と制度の変遷を追い、すでに「移民の時代」なのだと実証していく。

 安倍首相の「移民政策はとらない」との国会答弁も記憶に新しい。だが<どんなにその呪文を唱えても、この現実自体が変わることはない>と突き付ける。

 初めて移民に関心を持ったのは学生時代のフランス旅行。東大大学院で哲学者フーコーの思想を研究し、経済産業省に入ったが「肌に合わない」と一年で退職した。IT企業の「スマートニュース」などでマーケティング業務を通じてNPOと関わるうちに「日本にも移民がいると気付いた」。

 二〇一七年に独立し、ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」の運営をNPO法人「難民支援協会」と共同で開始。日本に住む外国人の生の声を聞き、一人一人の物語を伝えている。ただ「四百万人の話を聞くことは不可能。取材するほどに、自分でも全体像を知りたくなった」と本書を書いた。

 冷静で簡潔な筆致に徹しているが、随所に垣間見えるのは温かい人間観だ。

 <誰と住むか、どこで働くか(中略)それらが合理的に、計画的に、人間の「自由な意思決定」によって決定されていると考えるのは間違っている。人間はもっと複雑で曖昧(あいまい)な生き物だ>。そう、明日どうなるかも分からないのが人間だ。

 単身で健康で、一定期間だけ働いたら自費で帰国してくれる−。そんな「外国人材」を仮定する政府のご都合主義とは対極にある。

 無料のウェブマガジンと併せて読むと、さらに理解が深まる。今回が初の著書。ポスト平成の「移民の時代」に頼もしい書き手が登場した。講談社現代新書・九〇七円。 (谷岡聖史)

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