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【書く人】

表の顔に隠された本心『カモフラージュ』 女優・松井玲奈(れな)さん(27)

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 アイドルグループSKE48を引っぱった人気者は、根っからの読書好き。二〇一五年にグループを卒業後、女優として活動してきたが、小説家としても一歩を踏み出した。本作は、初の単行本となる短篇集。小説の月刊誌掲載作に書き下ろしを加えた全六篇で「装って生きる人たち」を描いた。

 その中の一作「リアルタイム・インテンション」は、ユーチューバーが主人公。動画の生配信中に、本音が出てしまうという闇鍋を食べて炎上する。自身と同じように公共に向けて表現活動をする人の「装いがはがれる瞬間の面白さを描きたかった。同じ立場として、共感できた」。

 表の顔と内面との違和感にさいなまれる主人公には、ほの暗さが漂う。「誰しも後ろ暗いところはあるし、どこまでいっても分かりあえない感覚を持っていますよね。しかも皆、表立って出さない」。これまで周囲と接する中で捉えてきた人間関係のイメージが反映されている。

 スプラッタ映画や漫画など、好きなものの要素も作中に数多く取り入れた。書き下ろしの一篇「完熟」のテーマは、少年漫画を愛読する中で感じ取った「男子の理想の女性像」。「少年、青年期に出会ったヒロインが、大人になってもずっと理想の女性像として残っている。次が出てきたら上塗りしていく女子とは違うと感じた」。その違いを、主人公の性癖という形で増幅させた。

 読書と同じく、書店も愛する。「棚の圧迫感と匂いに囲まれるのが好き。無限に時間が使える」。子どものころは、本の話の続きを考えて遊んだ。ただ、これまでは雑誌で読書エッセーを書く程度で、感覚としては「読む側」だった。書く側になって「ゼロから一を生み出すことに、ものすごく体力と精神力が要ると体感した」。地元・愛知県豊橋市での仕事に向かう新幹線の車内など、細かな空き時間を充てて仕上げた。

 アイドルだったという知名度から本を手にする人がいるだろうことを自覚し、「こつこつ努力する作家から見たら横入りで、マイナスのスタート」とも語る。それでも「この本が読書体験の入り口になるのでもいいと思う」。一冊の形にできた喜びを味わい、「書き続けて、作家としてプラスの位置に立ちたい」と意欲を見せる。

 集英社・一五一二円。 (松崎晃子)

 

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